まさかキミに好きなんて言えなくて

 昼休憩に校舎の屋上でのんびりと過ごしていると、真っ青な空をカラスが横切っていった。

 ボケーっと黒い点を目で追っていると、向かいにいるミクちゃんが「リホちゃんには伝えておきたいんだけど」とか言い出すので、遠くへ行っていたあたしの意識が引き戻される。

「実はわたし、レオ君のこと好きなんだよね」

 ミクちゃんが急にそんなことを言いだすものだから、あたしはしばらくその意味が理解出来ず、馬鹿みたいにボーっとしていた。

「……え、そうなの?」
「うん。この髪型だって、レオ君が『ポニーテールの子が好き』って言っていたからだし」

そんなこともあったよね。それを聞いたあたしは逆にショートへ変えたんだけど。

 そうかぁ、ミクちゃんはレオが好きなんだ。少しも不思議なことじゃないんだけど、なんだか複雑な気分。

「あいつってモテるよね」

 レオはいかにも爽やかイケメンって感じで、サッカー部で部員の中心的な存在でもある。やっぱりというか女子には人気があって、いつだって付き合う人には困っていないみたい。

 男子はみんなこういう高校生活を送りたいんだろうなって感じの生き方が出来てるって印象で、女の子に対しても慣れている感じがする。

 いっぺんどうしても来てくれって言われるからサッカーの試合を見に行ったこともあるけど、そこでオーバーヘッドキックでゴールを奪うもんだから女子たちは大興奮。何人もの同級生が一瞬で恋に落ちた。

 この流れだと、ミクちゃんもあの決勝ゴールで惚れちゃった感じなのかな。そりゃあんなの見せられたらね。

 でも、あたしにはそこまで響かなかったというか、そりゃそうなんだろうけど、いかにもモテ男のサッカー部員って感じのレオがそんなに得意じゃなかった。

「やっぱりこの前の試合で好きになったの?」
「ううん、もっと前からずっと好きだった。だから試合に呼んでもらえた時は本当に嬉しくて」

 そうか、ミクちゃんも試合に呼ばれて嬉しかったのか。全然気付かなかったな~。こういうところだよな、あたしの反省すべきところって。

「それで、ミクちゃんはどうしたいの?」

 わざわざそんな話をするってことは、その先の展開も予想出来る。伊達につき合いは長くない。

「あの……リホちゃんに訊きたいことがあるんだけど」

 ミクちゃんがモジモジしながら続ける。

「リホちゃんって、レオ君のことを好きだったりするのかな?」
「いんや、そうでもないよ。イケメンだけどね」

 面食いだけどね、本当は。でも、レオはちょっと違う。

 ミクちゃんがホッとしたような顔になる。なんだか複雑な気分になった。

「良かった~。リホちゃんと同じ人を好きになっちゃったらどうしようって思ってたの。それに、リホちゃんと勝負しても絶対勝てないよねって思っていたし」
「別に、そんなの気にしなくてもいいよ。そんなことで友達をやめたりはしないし」

 ミクちゃんは謙遜しているけど、彼女はアイドルグループにそのまま放り込んでも違和感がないくらいには美少女だ。そんな女の子がなんであたしごときを恐れる必要があるんだろうって思うけど、恋に落ちた少女っていうのはそういうものなのかもしれない。

「ねえ、リホちゃん。一生のお願いがあるの」
「一生って」

 あたしは思わず笑ってしまう。ミクちゃんの性格からして、一生のお願いをされるのは珍しい。

「わたし、どうしてもレオ君と付き合いたいの」
「うん」
「だから、ちょっと協力してくれないかな」
「協力……」

 一瞬「えー」って言いそうになったのをなんとか堪えてオウム返しする。

 だって、人の恋路を助けるって結構ムリゲーじゃない?

 余計なことをしたせいでこじれたら責任重大だし。それに……。

「それで、具体的には何をすればいいのかな?」
「それは追い追い決めていくんだけどさ、わたしがレオ君に告白出来るように助けてくれたら嬉しいかな」

 ミクちゃんがレオに告白出来るように……か。うまいこと立ち回って二人っきりのシチュエーションでも作ってちょうだいってことかな。知らんけど。

「まあ、いいよ。役に立てるかは分からないけど」
「本当に? ありがとう、この恩は一生忘れないからね!」
「まだなんにもしてないって」

 浮かれるミクちゃんを見ると、思わず笑ってしまう。

 なんだかとっても面倒くさい案件を抱え込んでしまった感が拭えないけど、この笑顔が買えたと思えばいいのかな。

 あたしは複雑な思いを隠しつつ、ミクちゃんのキラキラした笑顔を眺めていた。