ここはおそらくそう呼ばれている部屋だ。
格子の一部が扉になっていて、そこから出入りするようになっている。
立ち上がって扉のところまで行って押し開けようとしたが、鍵が掛かっていてびくともしなかった。押して駄目なら引いてみようと試みたが、状況は変わらない。
──どういうこと? なんで私が座敷牢に? なんで着物なの?
もう一度自分の姿を見下ろして、夢ではない場合のことを考えた。
誰かが自分の服を脱がし、着物を着せたのかと思うと恐ろしくなる。
それにとても不愉快で、気分が悪かった。
勝手に着替えさせるなんて、やることが普通じゃない。
「──お目覚めかい?」
大人の男の声がして、日奈子は慌てて格子の向こうに目をやる。
廊下を歩いて近づいてきたのは、長身の皇牙よりもさらに背の高い男性だった。
見たことがある顔だと、すぐに思った。
和服だったせいで、誰だか確信するまで数秒かかる。
竜王院皇一郎だ。
ダイナ・リーグ・ジャパンのエイペックス級最強のスター選手で、竜王グループの副総裁を務める竜王院皇一郎──皇牙の父親に間違いない。
「我が家へようこそ、アタヴィズムのお嬢さん」
「皇牙さんの……お父様?」
「如何にも、その通りだよ。あれは母親似だから私とは似ていないが」
「あの……これは、どういうことなんでしょうか?」
日奈子は格子に手をついたまま、舌が震えるのを感じた。
なんとか喋っているものの、ぞわりと鳥肌が立ち、怖くて仕方がない。
女子トイレでの出来事を、今この瞬間に思いだしていた。
スプレー缶から放たれた薬品を嗅いで、自分は眠ってしまったのかもしれない。
あの長身女性が持っていた大きなスーツケースに入れられて、竜王スタジアムからここまで運ばれたのだろうか。
