恐竜王の花嫁


 逃げ場を求め、自分の新しい居場所を妄想しながら歩いた。
 横断歩道を渡って少し歩けばスーパーがある。
「──っ!」
 車道に出た日奈子は、突然鳴らされたクラクションに振り向く。
 耳をつんざかれるような響きに、現実に引き戻された。
 白く大きなキャンピングカーが迫っている。
 運転席も一瞬見えた。
 次の瞬間、時間が止まる。
 気づいた時には急ブレーキの音がして、アスファルトに手をついていた。
 車は日奈子の顔すれすれのところで停まり、視界が白一色になる。
 車体から発せられる熱を感じた。
 焦げたようなタイヤの臭いが鼻をつく。
 激しい音の反動か、耳の奥でキーンという高い音だけが鳴り、世界から音が消えた。
「──ぅ、あ……」
 ずきんと膝に痛みが走る。
 車と接触はしなかったものの、転んで怪我をしたのがわかった。
 顔を上げると、歩行者用の信号の色が目に飛び込んでくる。
 赤だった。車道のほうは青で、運転手は何も悪くない。
「……ご、ごめんなさ……っ」
「何やってんだ、赤だろ! 死にたいのか!?」
 運転手が窓を開けて怒鳴り、日奈子はきちんと謝らなければと焦る。
 とにかく立ち上がりたかったが、膝が痛いうえに鞄が少し先のところに落ちていた。
 鞄を取らなきゃ、早く謝らなきゃ──そんな気持ちはあるのに、一歩間違えば今頃死んでいたかもしれないと思うと怖くて、体が思うように動かない。
 そうこうしているうちに、運転手の反対側にあるドアが開いた。
 ピカピカの黒い靴に黒いパンツ姿の男性が降りてきて、日奈子の鞄を拾う。