「怪我をさせてすまなかった。痛むだろう?」
「いえ、どれも掠り傷みたいなものですし、大丈夫ですから」
日奈子はソファーで皇牙の手当てを受け、熱っぽい痛みを我慢する。
皇牙は酷く気に病んだ様子で、「悪かった。俺が未熟なせいで……」と謝った。
暗闇が苦手なんですね──そう訊いてトラウマの原因を知りたくなるが、日奈子は何も訊かずに押し黙る。
触れられたくない弱い部分を、無理に抉じ開けてはいけないと思った。
何より、あんな皇牙を見たくない。
苦しそうで気の毒で、思いだすと胸が痛む。
自分は十分に対処できていただろうか。
救いを求める皇牙に縋りつかれた体が彼の体温を覚えているけれど……自分も少し動揺していたし、適切な対応ができたかどうか自信がなかった。
「がっかりしただろう? 俺の醜態を見て、幻滅したよな」
「──っ、いいえ、幻滅だなんて、そんなことあるはずないです。誰にだって苦手なものはあります」
「広い場所なら問題ないが、狭くて暗いのが苦手で……」
「閉所、恐怖症……ですか?」
「ああ……」
皇牙は日奈子の正面で床に膝をつき、日奈子の手を握る。
トラウマを語ろうとしているのがわかったが、思い返すだけでもつらそうだった。
「大人になった今でも、どうしても駄目なんだ。けど、誰にも知られていない」
「……はい。誰にも言いません」
皇牙は青白い顔をして、「ありがとう」と声を振り絞る。
額にはまた汗が浮かんでおり、つらそうだった。
誰にも知られていないということはトラウマを他者に語るのも初めてということになり、「無理に思いだして喋らなくてもいいですよ」と声を掛けるべきか迷う。
日奈子は少し悩んでから、沈黙を守る選択をした。
誰かに語ることで楽になることもあるかもしれないと思ったのだ。
