「日奈子、ありがとう」
顔があまりにも近くて、耳まで熱くなっていく。
今も両手は彼に取られたままだ。手指まで熱くなっている気がする。
こんなに近くで血の味の感想を言われると、こそばゆいような恥ずかしさがあって、けれどもなんだか誇らしくて嬉しくて、ときめきが加速していく。
この人が好きだと思った。
これは初めての恋なのだと自覚する。
そんなこと、もうとっくにわかっていたけれど──。
「体が冷えるといけない。帰ろうか」
「……はい」
早く手を離してほしい気持ちもあったのに、実際に離されると淋しくなる。
皇牙の手が背中の真ん中に回ると、また嬉しくなって、心がふわふわ浮ついた。
屋上からエレベーターホールに向かうための扉も、彼が開けてくれる。
レディーファーストが身に着いているようで、いつだってスマートだ。
エレベーターの扉が開くと、正面にある鏡に自分と彼が映っている。
やはり不釣り合いだと思うし、スケールの違いも感じるけれど、勝手に想っているくらいなら許される気がした。
恋心を隠し続ける覚悟があるなら、好きなままでいてもいいのかもしれない。
どうしたって好きにならずにいられない。
今ここで断ち切ったところで、この気持ちは何度でも蘇るだろう。
二人でエレベーターに乗り、皇牙が三階のボタンを押すと扉が閉まった。
エレベーターはいつも通り静かに下りていくが、三階に着く前に音もなく停まる。
なんだろうと思うや否や、照明が消えた。
光という光が完全に遮断され、視界が黒一色になる。
「わ、真っ暗……停電?」
日奈子は驚いて立ち尽くしたが、それほど怖くはなかった。
屋上と三階の間に取り残されただけだし、すぐに復活して動きだすと思ったからだ。
