恐竜王の花嫁

 結衣花によって日常を崩されるのが嫌だった日奈子は、胃痛を感じながらもD4と一緒に買い物に行き、いつも通り四人分の夕食を作った。
 皇牙と綾人は二人で三人分をぺろりと食べ、結衣花のことには一切触れなかった。
 D4が知っている事柄は皇牙や綾人に筒抜けなので知っているはずだが、触れない選択をしたのだろう。
 今夜は大事な儀式があるので、そうしてくれて助かった。
 数時間経って胃痛や胸の痛みも落ち着いている。
 もう結衣花のことを考えたくない。
 きっちりと言いたいことを言った結果、こうしていつも通りの日常が保たれていることが大事だ。
 夕食を摂ったあとは一旦解散して、日奈子は丁寧に身を清める。
 二回目なので流れがわかっている分、余裕がある面もあれば、吸血のあとの皇牙の変化を知っているだけに、余裕がない面もある。
 首筋にキスをされて、一際美しく輝く彼を見て……顔が真っ赤になったりしないか心配だった。
 絶対に気づかれてはいけない想いがある。
 もし気づかれたら、この愛すべき日常が壊れてしまうかもしれない。
 日奈子は生餌としての覚悟を決めて、元気が出るレモン色のドレスを選ぶ。
 今夜もD4が部屋の外で待ち受けていた。
「日奈子ちゃーん、今日も可愛いー!」
「レモン色のドレスが超似合ってる!」
「靴まで可愛いねー、お姫様みたい」
「ジュエリーのチョイスもバッチリ」
「……そんな、大袈裟ですよ」
「いやいやほんとに似合ってる」
「ありがとうございます」
 結衣花の一件で世話になったD4に改めて感謝しながら、日奈子は一人でエレベーターに乗る。
 正面が全面鏡になっているので、屋上まで行く間に最終チェックをした。
 嫌なことがあったのでレモン色を選んだのだが、顔色がよく見えて正解だった。
 ほどよい高さのヒール靴でかつんと屋上階に踏みだし、エレベーターホールから外に出るための扉に触れる。
 皇牙の姿を求めて押し開けると、正円を描く月の下に彼が立っていた。