恐竜王の花嫁


 しかし同情する気にはならなかった。
 母親の料理を「不味くて最悪」と結衣花は言うけれど、日奈子の料理を美味しいと言ったことは一度もない。
 なんでもやってもらって当たり前で、感謝の心がまったくない妹だった。
 あんな生活に誰が戻るというのか。自分が悪いとかわがままだとか、そんなことは思わない。いくらまくし立てられても帰る気にはなれない。
「それからパパとママが言ってたんだけど、高額報酬の生餌やってるんだからお金を家に入れなさいって。半分でいいから入れろって言ってたよ。これまで授業料が高い私立の学校に入れさせて育ててやったんだから、これからは返す番だってさ」
 それも嫌だと思った。
 金額の問題ではなく、皇牙からもらった金を一円だって渡したくない。
 自分は小学校の中学年からずっと、家政婦同然で家族に尽くしてきたのだ。
 育ててもらった分の恩返しはもう終わったと思っている。
「黙ってないでなんとか言ったら? なんで下向いて黙ってんの?」
 苛立つ結衣花の声を浴びながら、日奈子は静かに呼吸した。
 結衣花と両親に押さえつけられてきたので今でも怖いと思ってしまうが、はっきり言わなくてはならない。
 皇牙や綾人が試合で果敢に戦う姿を思い浮かべながら、日奈子は自分なりの戦いに挑む。もう以前の自分じゃない。妹に馬鹿にされて罵倒されるような、無価値な人間なんかじゃない。
「帰らないわ。仕送りもしない」
「──はぁ!? 何言ってんの!? どんだけ業突く張りなの!? あんたの勝手な行動のせいで皆が迷惑してんの! こっちは最大限譲歩して皇牙様の生餌を続けていいって言ってんだよ! この学校に通うのも反対してないじゃん! せめて帰ってきて家のことやってよ! あんなゴチャゴチャした家で暮らしたくないの!」
 結衣花が立ち上がって怒鳴ったその時、心の声が聞こえてくる。
『シンデレラ気取りのブス! 死ねばいいのに!』
 久しぶりに聞く結衣花の本音に、胃どころか心臓まで痛むようだった。
 アイスピックでグサグサと刺されているような、強い苦しみが生まれる。
 けれども負けたくなかった。
 泣くのも絶対に嫌だった。