日奈子はベッドに横になり、頭の痛みに耐える。
薬は効かない痛みだとわかっているので、目を閉じて安静にするしかなかった。
カーテン越しに届く朝の光すら今はわずらわしく、暗闇を求めて腕を瞼に乗せる。
一限目から嫌な声が聞こえるなんて、今日は本当についていない。
数学教師と男子生徒の間に何があったのかは知らないが……他者を憎み、あんなに強く死を望むなんて、とても理解できなかった。
──二限目は大丈夫だといいな……。
頭痛が引いて教室に戻れることをひたすら願う。
そして次の授業では誰の声も聞こえないことを祈った。
酷い時は複数の人間の声がうるさく重なり、最悪の気分になる。
自分宛ての悪意ではないとわかっていても、聞きたくない言葉はあった。
──ほんと、自分が嫌になる……。
耳を塞ぐようにコントロールできることならまだいいのにと、いつも思う。
現実はそうではないので、呪わしい声が聞こえるたびに自己嫌悪が募った。
保健室の常連になどなりたくないし、普通に授業を受けたいのに叶わない。
自分の居場所はどこにもないと感じて、少し涙が滲んでしまった。
六限目と帰りのホームルームが終わり、日奈子はルナに「部活頑張ってね」と声を掛けて独りで帰る。
授業中に妹の結衣花から『鶏モモ肉とブロッコリーのクリーム煮』と、それだけがスマートフォンに送られてきた。
いつものことで、夕食のリクエストだ。
たくさん持っているはずの可愛いスタンプは送られてこない。『お願い』とか『よろしく』といった言葉もない。
──昨日が鶏だったから、魚の煮つけにしようと思ってたのに……。
日奈子は重い溜め息をつき、いつものスーパーに向かう。
双子なのに結衣花は決して日奈子を名前で呼ばず、「お姉ちゃん」と呼ぶことで常に妹ぶっている。
両親も、何かと言えば「お姉ちゃんなんだから」と日奈子を抑えつけ、家事全般を押しつけて思うままに支配する。
──高卒ならあと一年。大学に行くならさらに四年……行きたいけど行きたくない。こんな生活が続くなら高卒でいい。働いて、小さなアパートを借りて……。
