恐竜王の花嫁


 いつも家事で疲れて冷め切っていた日々が、嘘のようだ。
 その時ふと、日奈子は赤羽の左手に目を留める。
 自分を肘でつんつんとつついてくる赤羽の手首に、薔薇のような痣があった。
 肌を思い切り吸った時にできる、あの痣にとてもよく似ている。
「赤羽さん、その……手首、どうしたんですか?」
「ああこれ? もちろん吸血の痕だよ、僕は生餌だし」
「皇牙さんにつけられたって……ことですよね?」
「日奈子ちゃんもつくでしょ、真っ赤なやつ」
 日奈子は「はい……」と答えつつも混乱し、無意識に首筋をさすった。
 二週間経ったのでもう痕は残っていないが、赤羽の手首にあるものと同じものが、つい先日までここにあったのだ。
 手首ではなく首筋に、間違いなくあった。
「日奈子ちゃんは首筋を吸われてたよね?」
「は、はい……首筋というか肩の近くというか、この辺を吸われました」
 日奈子が改めて吸われた箇所を指し示すと、D4全員ににやにやと笑われる。
 意味深な笑い方に困惑した日奈子に、赤羽は「皇牙様ってばエロいんだからー」と、思いがけないことを言いだした。
「エ、エロい?」
「やー、あの日はちょっとびっくりしたよね。余計なことは言わなかったけど、内心うわーって思ったよ。女の子相手だと首筋吸うのねーって、下心見え見え」
「えぇ、じゃあ……私だけ首筋から、ってことですか?」
「そういうことでーす」
「──っ」
 日奈子は驚きと共に心臓が大きく脈打つのを感じる。
 ただでさえ興奮していたところに、さらに興奮材料を投げ込まれた心地だった。
 もちろん、皇牙の行動に深い意味などないことはわかっている。
 出会った日の夜のことだし、深い意味などあるはずがないのだ。
「もしそのことを突っ込んだらさ、たぶんこう言うと思う。『日奈子は女の子だから、見えないところを選んだだけだ』とかねー」