恐竜王の花嫁


 二色のARマーカーによって、皇牙のティラノサウルス・レックスは赤に……対戦相手の九州の王者は青に彩られる。
 二頭は牽制し合いながら正面衝突し、ドゴォッと大きな音が届いた。
 熱狂するスタジアムに、地響きのような歓声が沸き上がる。
「す、凄い……スタジアムが揺れてるみたい」
 恐竜同士の激しいぶつかり合いも凄まじいが、ファンの歓声も凄くて圧倒される。
 そんな日奈子の隣で、綾人は『エイペックス・ブルー・フローズン』を飲みながら「そのうち実物を観に行くといいですよ」と笑った。
「……え? 実物、ですか?」
「はい。スタジアムのVIPフロアよりもさらに高い特別席がありまして、たとえばスポンサー企業のトップとかマニアックな富裕層なんかは、そういう席を好む傾向があるんです。恐竜による地響きをダイレクトに感じられるし、時には砂や血が飛んで来たりもする。ダイナ・リーグに詳しくなった今の日奈子さんなら、十分楽しめると思いますよ。皇牙様は日奈子さんに甘いので、是非おねだりしてみてください」
「そ、そんな高い席……おねだりなんてとんでもないです。できません」
「まあそう言わずに。その時は私も御一緒しますから」
 綾人の言葉に、D4が「僕達も行きたーい」と声を揃える。
 そうしている間にも試合は続き、赤いARマーカーの皇牙が相手の後肢に思い切り咬みついていた。
 脚の骨を咬み砕かれたのか、青いARマーカーの対戦相手は痛みでのた打ち回り、それでも負けじと立ち上がる。
 日奈子は皇牙を応援していたが、根性を見せる対戦相手にもつい、「頑張って」と声援を送りたい気持ちになった。
 格闘技のことはよくわからないが、やはり一方的では見応えがない気がする。
 何度も激しくぶつかり合い、知性があるからこそできる大技小技を掛け合ってこそ盛り上がるのだろう。
 皇牙の試合は数分続き、やがて対戦相手の体から水蒸気が立ち上った。
 恐竜化を解こうとしているのがわかる。つまりは降参──皇牙の勝ちだ。
 スタジアムの歓声が一際大きくなり、画面には敗者の背中が映しだされる。
 恐竜の背中が急速に縮まっていき、人間の背中に変わると勝敗が表示された。
「皇牙さん、勝ちましたね!」
「ええ、相手も粘り強かったし、いい試合でした」