『コイツマジうぜぇ、死ねばいいのに』
「──っ」
数学の授業に集中したい日奈子の希望を打ち砕き、クラスメイトの男子の心の声が聞こえてしまう。
斜め前の席の男子の声だった。
本人は不機嫌そうな態度で授業を受けていて、もちろん無言だ。
それなのに日奈子の頭には、『マジムカつく、生きる価値なし』と聞こえてくる。
いつも通り無視をしようと思ったが、他者への……おそらく数学教師への嫌悪感があまりにも強くて、とても大きな声として頭に届いた。
しばらく止まったかと思うと、また急に『死ね、死ね!』と呪いの言葉が始まる。
耳を塞いだところで聞こえてしまう、防ぎようのない悪意がつらい。
聞いているうちに気分が悪くなり、ストレス性の偏頭痛が起きた。
左側頭部をぎゅっとつかまれたように頭が痛み、吐き気もする。
男子生徒が放つ悪意に負けて、日奈子はふらりと立ち上がった。
「……ん? どうした桃井、いつもの頭痛か?」
「すみません、頭が痛くて……」
「あー、保健室に行け」
教師は犬猫を追い払うように邪険に手を振る。
教室の後ろまで行くと、一番後ろの席のルナが「大丈夫?」と気遣ってくれた。
幼馴染のルナには、強くネガティブな心の声が聞こえてしまうことを、ずっと昔に打ち明けてある。
彼女は信じてくれて、頭痛に見舞われる日奈子のことをいつも心配してくれた。
日奈子は首を縦に振りつつ、「いつもの……」と小さな声で答える。
後ろの扉から教室を出ると、やっと呪いの言葉から解放された。
それだけで吐き気は少し引いたが、頭痛は酷く残っている。
階段を降りて保健室に行くと、養護教諭に「またか」という顔をされた。
「すみません、頭痛で……少し休ませてください」
「はいどうぞ、ベッド空いてるわよ」
