「……はい」
食事をしながら会話をする二人を見ていて、日奈子は何も言えなくなる。
涙声になるのがわかっていたので、喋らないよう声を呑み込んだ。
けれどもそれは無駄な努力で、頬を涙が伝ってしまう。
気づいた時にはすでに遅く、皇牙の視線が顔に止まっていた。
「日奈子?」
「……あ、ごめんなさい」
慌ててエプロンを引き寄せ、涙を拭く。
皇牙だけではなく綾人にも気づかれ、「大丈夫ですか?」と問われた。
タマネギが目に染みて……と誤魔化そうと思ったが、やはり涙声になりそうで何も言えない。
場の雰囲気を壊した申し訳なさと恥ずかしさで、耳まで熱くなった。
「旨過ぎて泣いてるのか?」
「いえ……っ、すみません」
美味しいなんて言われたことなくて──正直にそう言おうかとも思った。
けれども実家でのことはあまり話したくないし、もう思いだしたくもない。
日奈子は意を決して顔を上げ、また零れてしまった涙をエプロンに吸わせた。
「美味しいって言ってもらえて、凄く、嬉しかっただけです」
心からの感謝を込めて、喜びのみを口にする。
皇牙はしばらく日奈子を見つめていたが、「そうか」と静かに笑った。
彼らと喋りながら食べる料理は、これまでのどの料理よりも美味しく温かい。
日奈子が「また作ってもいいですか?」と訊ねると、「できれば毎晩食べたい」と、これ以上ない答えが返ってきた。
