しかし瓶物だらけで重たい袋を手にした瞬間、「うっ」と呻いて体を丸めた。
「無理をするな、まだ傷が治ってないんだろ」
「──っ、脇腹が、少々」
「しばらく安静にしてろ」
皮肉っぽい笑い方をした皇牙は、再び荷物を手にする。
そして日奈子の背中に触れると、「彼女がアタヴィズムの桃井日奈子だ」と綾人に紹介した。
「初めまして、桃井日奈子です。よろしくお願いします」
「日奈子さん初めまして、九条綾人です。皇牙様の秘書をしながらダイナ・リーグ、エイペックス級の選手をやっています。昨日は試合を観てくれたそうで、ありがとうございました」
二十六歳の綾人から頭を下げられ、日奈子は酷く恐縮する。
皇牙は自分の周りの人を性格で選ぶと言っていたが、その言葉に信憑性を感じた。
綾人はD4のように微笑んでいるわけではなく、どちらかと言えばクールな印象の美男だが、話し方は丁寧で声も優しい。
何より日奈子に対して悪意を抱いていなかった。
「日奈子さん、皇牙様の生餌になっていただきありがとうございました。若く健康なアタヴィズムは、肉食竜人のステータス・シンボルなんです」
「ステータス・シンボル……ですか?」
「綾人、余計なことは言わなくていい」
「皇牙様も一昨日のバトルで疲れていらしたと思うので、早速血を提供していただき本当に感謝しています」
「あ、いえ……お役に立てたのならよかったです」
「お荷物お持ちします」
「いえいえ、大丈夫です。怪我してるんですよね? 自分で持てますから」
日奈子は綾人に荷物を渡すことなく、皇牙とエレベーターに向かう。
綾人は申し訳なさそうに頭を下げて、「お気遣いありがとうございます」とまた礼を言った。
「綾人、今夜は日奈子に家庭料理を作ってもらうことになった」
「おお、それはいいですね。皇牙様は家庭の味を御存知ないから」
「よかったら綾人さんも御一緒に……」
