恐竜王の花嫁


「すみません! 皇牙さんには超一流のシェフがついてますよね!? 出過ぎたことを言いました。本当にすみません、今のは忘れてください!」
「いや、是非作ってくれ」
「……えっ!?」
 思いがけない返事に、日奈子は耳を疑う。「作ってくれ」と言われたのは間違いないようだが、その言葉を素直に喜ぶことはできなかった。皇牙は生餌に優しいので、おそらく気を遣って言ってくれたのだ。
「私に気を遣わないでください。素人の料理なんて本当は嫌ですよね」
「いや、気など遣ってない。俺は家庭料理を食べたことがほとんどないんだ。確かにシェフはついてるが……たまには気取らない食事を摂ってみたい。俺はスタジアムのB級グルメだって好きだし、家庭料理だって美味しく食べられる。ただ……できれば肉がメインだと助かる。野菜も米も摂るが、主に肉を食べて生きている」
「は、はい……お肉ですね、わかりました!」
 日奈子は皇牙が本心から言っているのか半信半疑だったが、具体的なリクエストを受けて俄然やる気になった。
 とんでもなく烏滸がましい申し出をしてしまったものの、本当に作ってもいいのだ。
 皇牙のために肉がメインの家庭料理を作れる。食べてもらえる。
 嬉しくて嬉しくて、保健室にいた時よりも涙腺が刺激された。
「そうそう、これから紹介したい奴がいる。俺と同じT・レックスの竜人だ」
「……T・レックス? えぇっと、ティラノサウルス・レックスの略ですね?」
「ああ、昨日ダイナ・リーグで戦ってた九条綾人。さっき北海道から帰ってきた」
「あ、皇牙さんの秘書の方……」
「有能な秘書だ。だいたいなんでも先回りしてやってくれる」
「秘書のイメージそのままなんですね」
「確かに秘書らしい秘書だな」
 皇牙と一緒に第一寮に戻ると、エントランスに九条綾人が立っていた。
 皇牙と同じくらいの体格で、端正な顔をした黒髪の青年だ。
「皇牙様! スーパーの袋を提げて歩くなんて、らしくないことしないでください」
 綾人は皇牙を見るなり距離を詰め、皇牙からスーパーの袋を奪おうとする。