恐竜王の花嫁


「だって昨日まで人間だったんでしょ? それが急に竜人になって竜人の学校に通うなんて如何にも大変そうだし、ましてや竜王院皇牙の生餌だなんて、もう嫉妬されて恨まれて大変じゃない? 特に女の子に睨まれたでしょー」
「は、はい」
 睨まれるどころか心の中で『死ね! 死ね!』と言われたことを思いだすと、痛む頭がさらに痛くなってくる。胃もキリキリと引き絞られ、吐き気すら感じた。
「顔色が悪いわね、好きなベッドで寝ていいわよ。教室に行きたくなかったらここで勉強すればいいし、皇牙くんから『よろしく』って言われてるから安心して」
「……っ、皇牙さんから?」
「心配してたわよ。彼の生餌なんてどう考えてもやっかまれるしね。草食竜人の子は皆、皇牙くんの生餌になりたくて仕方ないんだから」
「そう、ですか……そうですよね」
「妙なトラブルが面倒だから男の子だけ選んでたのに、急に女の子でしょー。しかも昨日まで人間だったなんて、そりゃ嫉妬する子達の気持ちもわかるわー」
「なんか、すみません」
「私に謝ることなんてないわ。とにかく無理に教室行かなくていいから、放課後までここにいなさい。もしイジメとか受けた時は、私や担任の先生にちゃんと言うのよ。防犯カメラがあちこちに設置されてるから、靴を隠されたりはしないと思うけど」
「はい、御心配ありがとうございます」
 日奈子は鞄を持ったまま奥のベッドに向かい、新品のテキストを開く。
 何もせず一日中寝ているなんてあまりにも情けないので、受けるはずだった科目のテキストを見て、自習することにした。
 ──あんな酷い悪意をまた受けるくらいなら、ここで自習するほうがいい。今日も明日も明後日も……保健室登校でいい。卒業するまで、ずっと……。
 もう悪意は聞こえないのに、聞いてしまった言葉が頭の中にこだまする。
 悲しみと恐怖で泣きそうになったが、洟を啜ってなんとかこらえた。