皇牙とD4は大学生なので、朝は会わずに一人で登校する予定になっていた。
寮の一階に下りてエントランスホールを出ると、緑豊かな学園が広がっている。
昨夜到着した時にはすでに暗かったので全貌が見えなかったが、学園の敷地は想像以上に広大だった。
手入れの行き届いた並木道がどこまでも続き、あちこちに花壇がある。
登校する生徒達は颯爽と歩いていて、竜人らしく見目のよい人が多かった。
日奈子は肩に掛かる新しい学生鞄の重みを感じながら、一人で一歩を踏みだす。
洗練された空気をまとう生徒達に交じって、事前に地図で確認した高等部の校舎を目指した。
──昨日ライトアップされてた校舎、近くで見ると大きい。
D4の指示に従い、日奈子はまず職員室に行く。
担任の男性教師がすぐに出てきて、「担任の安住です。貴女がアタヴィズムの桃井日奈子さん?」と訊かれる。
竜人にしては少し気弱そうな雰囲気の、四十歳くらいの教師だった。
「初めまして、桃井日奈子です。今日からよろしくお願いします」
「突然の転校生でびっくりしたよ、何よりアタヴィズムなんて珍しいしね。昨日まで人間として暮らしていたんだって?」
「はい。先祖返りの竜人だってことが急にわかって」
「それは大変だったね。でも竜王院皇牙くんの生餌なら待遇はいいと思うし、人間も竜人もそれほど変わらないから学校のことは何も心配要らないよ。皇牙くんは人気があるし、クラスメイトからは羨望の的だろうね」
「転校とか初めてなので、緊張してます」
羨望の的──と言われて、日奈子は嫌な予感を覚える。
そういう対象になったことがないのでわからないが、羨望には嫉妬がつきまとい、それは紛れもなくネガティブで強い感情に直結するだろう。
砂を呑んだように息苦しい不安に駆られながら、日奈子は高校三年生の教室がある二階に移動した。
安住が教室の扉を開けると、すでに登校していた生徒……おそらくクラスの三分の一くらいの男女が一斉にこちらを見る。
「おはよう、転校生を連れてきたよ」
安住の挨拶に、点在していた生徒達が「おはようございます」と返した。
その瞬間、日奈子の頭に生徒達の声が響き渡る。
『何この子、全然大したことないじゃない!』
