恐竜王の花嫁

 忘れられない夜を終えて眠りについた日奈子は、見慣れた自室とは違う部屋で目を覚ます。
 眠る前に「全部夢で、起きたら家に戻ってたらどうしよう」と不安だったが、目の前に広がるのは豪奢なベッドルームだった。
 一人で使うには贅沢過ぎるベッドには、絹のような触り心地のコットンのリネンが敷いてあり、枕も掛け布団もすべてが肌に心地好い。
 そのうえ高級なウッド系のアロマが焚かれていて、朝からとても気分がよかった。
 優雅な目覚めに現実を知ると、昨日の出来事がまざまざと蘇ってくる。
 ダイナ・リーグのスター選手──人気ナンバー1の竜王院皇牙と出会い、アイドルグループのように華やかなD4に親切にしてもらい、この竜王学園に転校した。
 両親と妹とは決別して、大切な料理本以外はすべて捨ててここに来た。
 今日から新しい日々が幕を開ける。
 学校も人間関係も真っ新なところからのスタートだ。
 日奈子は洗面台の鏡の前で寝間着を脱ぎ、そこに映る自分の首筋を見る。
 皇牙のつけたキスマークがくっきりと残っていて、まるで赤い薔薇のようだった。
 見るたびに昨夜のことを思いだしそうで、見えないよう封印したくなる。
 昨夜の皇牙の艶っぽい輝きは毒だ。思いだすだけで胸が騒ぐ。
 ──私は生餌……ただの生餌。生きた餌と書く、生餌……。
 皇牙と過ごした夜を一旦忘れるため、呪文のように言い聞かせた。
 もう十分によくしてもらっているのだから、これ以上を求めてはいけない。
 用意されていた制服に着替えると、お嬢様っぽいデザインに気分が少し上がった。
 冷蔵庫はあるが飲み物しか入っていないため、テーブルの上に置かれていた果物を切り、ワンプレートに盛りつけて食べる。
 ──学校帰りにスーパーに寄って、食材いろいろ買わないと……。
 生活費の代わりとして、昨夜D4からクレジットカードを渡された。
 必要な物はなんでもそれで買えばいいと言われた挙げ句に、「報酬には手をつけず貯金したらいいと思うよ。投資に回して増やすのも手だよ」などと言われた。
「百万円なんて絶対多過ぎます。やっぱりいただけません」とまた断ったが、皇牙はそれに関してはまったく聞き入れてくれない。
「ほんとにいいのかなぁ」
 ふうと溜め息をつきながら、プラチナ色のクレジットカードを財布に収める。