恐竜王の花嫁

 アタヴィズムの血を口にしたのは、二十二年生きてきて今夜が初めてだった。
 自室に戻っても官能的な甘さが舌の上に残っていて、魅惑的な血の味が五臓六腑に染み渡る。どんな血も酒も、これほどの悦びを与えてはくれないだろう。
 大袈裟ではなく、日奈子との出会いは運命だ。
 いつかは持ちたいと密かに願っていたアタヴィズムの生餌を、まさかこんな唐突に得られるなんて──運がいいにも程がある。
 他者からよく「持ってる男」などと言われることがあるが、今日の自分はまさしくそれだった。
 数百万人に一人いるかいないかの超がつくレア、アタヴィズム──その生餌を持つことはすべての肉食竜人の願望であり、それでいて叶わない憧れだ。
 ──十八歳という若さ……しかも謙虚で慎ましやかな性格、見た目も非常に清楚で好ましい。もしも神が存在するなら、彼女は天からの贈り物かもしれない。
 噂で聞いていた以上に身も心も震える血の味に、皇牙は静かに興奮していた。
 父親の竜王院皇一郎はアタヴィズムの生餌を二人も所持していて、時々自慢されるので正直羨ましく思っていたが、これで形勢逆転だ。
 父親のアタヴィズムは二人共だいぶ年を重ねている。それにどちらも男だ。
 健康的で芳しい肌を持つ可愛い女子高生のアタヴィズムなんて、最高過ぎてどんな言葉を使ってもこの愉悦は表現できない。
「失礼します、皇牙様」
 日奈子の血の余韻を味わっていたくて、吸血後なにも飲まずに陶然としていると、D4の赤羽が訪ねてくる。
 四人のまとめ役のような存在の赤羽は、「早々に請求書が上がってきましたよ」と、日奈子を迎えるために使った百貨店の明細を見せてきた。
 気に入った生餌を迎えるときは、大盤振る舞いして辞めにくくさせるのがいつもの手だが、さすがに今日ほど金を使ったことはない。
「短時間でよくやってくれた。俺が思っていた以上の準備で、満足してる」
「ありがとうございます。なにしろ彼女はアタヴィズムですし、女の子なので十分な待遇が必要かと思いまして」
 皇牙の心を読んでいるかのように、赤羽はにんまりと笑う。
 嬉し過ぎる気持ちを皇牙は顔に出さないようにしていたが、肉食竜人なら誰だってアタヴィズムが欲しいのは明白だ。
「あの子を一生囲っていたい」
 皇牙は赤羽に向かって、はっきりと明言した。