あまり優しくしないでください──そう言いたい気持ちと、単純に嬉しい気持ちが綯い交ぜになる。
日奈子はただ皇牙の名を口にすることしかできなかった。
そんなに優しくすると勘違いされちゃいますよ──と彼に言えるものなら言いたいくらいだ。それだけ生餌が大切だというだけなのに、特別扱いされてときめいている自分がいて……恥ずかしい。罪の意識で胸が痛む。
「風邪を引くといけない、もう行こう」
「……はい」
ダンスでもするように手を引かれながら、日奈子はエレベーターホールに向かう。
皇牙と一緒にエレベーターに乗ると、正面の鏡に二人の姿が映っていた。
皇牙は内側から煌めくように輝いて見え、自分なんかとは不釣り合いだ。
わかっていたことだけれど鏡は残酷で、スケールの違いを思い知らされる。
──内出血の痕が、凄い……くっきり残ってる。
皇牙に口づけられた肌は、これまで見たこともないほど真っ赤になっていた。
皮膚の下に流れる血の色を感じさせる、薔薇のような赤だ。
ああ、私は生餌なんだ。生餌以外の何者でもないんだ──そう思った。
生意気に少し気落ちしてしまうけれど、十分過ぎると思わなければならない。
自分の立場を理解して、身のほどを弁えなければならない。
それができなければ不幸になる。
幸せか不幸せかなんて気の持ちようだ。
実らぬ恋になど、絶対に落ちてはならない──。
