戸惑いながらもなんとか言いたいことを言えて、緊張が少し解ける。
皇牙は完璧な形の唇に笑みを浮かべながら、「何を言うかと思えば」と呟いた。
「日奈子……金はいくらあっても邪魔にはならない。将来のために受け取れるものは受け取っておけ」
「──でも……」
「お前にはそれだけの価値があるんだ」
「あ……っ」
月光に照らされてくっきりと陰影が浮かび上がる皇牙の顔が、首元に迫ってくる。
先ほど日奈子の爪に触れていた唇が、悩ましく開いた。
皇牙の匂いがする。
洗練された香りに酔いそうだった。
間もなく吸血が行われるのだとわかる。
もう止められない。余計な言葉は挟み込めない。
これは満月の夜に行われる儀式で、これからの自分の仕事なのだ。
「──ぅ」
皇牙の唇が肩と首の間に触れる。
内出血の痕を刻むように、肌を吸われた。
皇牙の言う通り痛みはないものの、吸血されているという感覚はある。
自分の中に流れる血液が熱となって、皇牙の唇に向かっていくようだった。
吸われている肌が熱い。
首や顔が火照りそうだ。
痛いどころか気持ちがよくて、いけないことをしているような背徳感に襲われる。
──これが吸血……私の血が、皇牙さんの血肉になる。
しばらくすると唇が離れて、皇牙の顔が再び月明りに照らされた。
芳醇な美酒に酔ったような表情は、これまで見てきた彼とは違う輝きに満ちている。
なんだかとても官能的で、妖しくて……近くで見ていると鼓動が速くなってたまらなかった。
──目が、普段より赤く……きらきら光ってる。
