恐竜王の花嫁


 大事な物……と言われて真っ先に思いつくのはこれで、あとはスマートフォンさえあればそれでよかった。
「転校って仰いますけど、大学は? 大学はどうするんですかっ? せっかく私立の大学付属の学校に通ってるんですよ」
「竜王学園大学に通ってもらいます」
「……が、学費は?」
「先ほど申し上げた通り、すべて私が負担します」
 皇牙がきっぱりと言い切ると、両親は顔を見合わせる。
 父親が先に口を開き、「それなら……まあ……」と肯定的に呟いた。
「待って、この子がいなくなったら家事は誰がやるのよ!? 私は無理よ、仕事があるもの。デリバリーばっかりってわけにもいかないし」
「娘さんはもう一人いらっしゃるようですが」
「そ、それは……そうなんですけど……」
「日奈子さんの学費や生活費が浮きますから、今後はハウスキーパーでも頼まれてはいかがでしょうか?」
 皇牙は冷たく突き放すように言う。
 両親は再び顔を見合わせ、「ハウスキーパーか……」「他人に家を任せるのはなんか抵抗が……」と言いながらも、一応納得したようだった。
 金への執着が強い夫婦なので、すぐに損得で考えて結論が出たのかもしれない。
「皇牙様、待ってください! お姉ちゃんが竜人なんてとても信じられません!」
「病院で竜人遺伝子の検査をした結果、陽性だったんだ。非常に珍しい先祖返りで、草食竜人の血を引いているとわかった」
「それなら、私も検査してください! 双子だから私もきっと竜人です! そしたら私が生餌になります。私は皇牙様のファンだし、私のほうが絶対役に立ちます!」
 結衣花が自信満々に自分を売り込む姿を見て、日奈子は不安に駆られる。
 もし結衣花も竜人だったら、皇牙は可愛い結衣花を選ぶのだろうか。
 それとも二人まとめて自分の生餌にするのだろうか。
 どちらも嫌だと思った。
 とても嫌だ、嫌でたまらない。
 料理本を持つ手に力が籠ってしまう。