『もう帰ってこなくていいわよ』
最新のメッセージは母親のスマートフォンからのものだった。
淡い期待は木っ端微塵に打ち砕かれ、罵詈雑言に呑み込まれる。
結衣花からのものもあり、『お姉ちゃんが帰ってこないからデリバリーにしたんだからね! 鶏モモ肉とブロッコリーのクリーム煮が食べたかったのに!』と、怒っている。さらに『無視してんじゃねーよ!』と汚い言葉を使っていた。
「強烈な母親と妹だな」
「──ぁ……っ」
「すまない、見えてしまって」
隣に座っている皇牙は、謝りつつも確信犯という顔をしていた。
最初から、家族との関係性を知るために隣に座ったのかもしれない。
「妹は……双子なんです。二卵性なので似てないんですけど……」
「今夜は夕食当番か何かだったのか?」
「いえ、いつも私が作ってます。今夜はデリバリーにしたそうです」
「御両親は? 日奈子がいない時くらい作らないのか?」
「苦手みたいで、共働きだし……忙しいみたいです」
「妹は?」
「妹も忙しいみたいで」
身内の悪口を聞かせたくなかった日奈子は、それ以上は語らなかった。
まるで家政婦のように扱われ、「ありがとう」や「美味しい」など、労いの言葉もなく自由を奪われてきたことを、思いだすことすら苦痛だ。
スマートフォンを見るのをやめて、既読になった途端に電話が掛かってこないよう電源を落とす。
「日奈子、これまで大変だったんだな」
「──っ……いえ、大したことでは……」
詳らかにしなくても、伝わったものがあるのかもしれない。
皇牙が肩を抱いてくれる。
自然と頭が触れ合って、息遣いまで聞こえてきた。
