恐竜王の花嫁


「あ、これ片付けなきゃ」
 日奈子はテーブルの上に散乱している飲食物の片付けをしようとするが、すぐさまスタッフが飛んできて、「どうぞそのままになさってください」と恐縮している。
 VIPフロアとはそういうものなのか、スタッフが二人掛かりで片付けてくれた。
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、すべてお任せください」
 スタッフに礼を言っていると、皇牙から「日奈子」と呼ばれて肘に触れられる。
「帰りはラプター級の恐竜と握手ができるんだ。せっかくだからしていくか?」
「恐竜と握手、ですか……えぇと、もしよければぜひ、してみたいです」
「よし、行こう」
 皇牙は満足げに笑って、「こっちへ」と出入口に導いてくれる。
 煌びやかな装飾が施されたゲートの前に、ティラノサウルス・レックスとは打って変わって小さな……人間と同じくらいの大きさの恐竜が並んでいた。
「わ、本物の恐竜っ、実物を見るのは初めてです!」
「左から順に、敏捷性が自慢の肉食恐竜ヴェロキラプトル……これは映画やなんかで有名だから知ってるよな? その隣はトリケラトプスと同じ角竜類に属するプロトケラトプス、さらに隣は石頭のステゴケラスで、最後は鋭い鉤爪を持つ肉食恐竜ディノニクス……すべてラプター級の選手候補生だ。順番に触らせてもらえ」
「はい!」
 日奈子はバトルの興奮を引きずったままさらに興奮し、まずはヴェロキラプトルと握手を交わした。
 爬虫類というと冷たいイメージを持っていたが、前脚には多少の温もりがある。
 鰐のような目にも愛嬌が感じられた。何より、知性が人間と同程度かそれ以上だと思うと安心感があって、意外と怖くはない。
 ──結構、可愛いかもしれない。着ぐるみじゃないんだよね、本物の恐竜……。
 実物に触って感動した日奈子は、「ありがとうございました」と礼を言って、次の恐竜の前に立つ。
 恐竜の種類は説明を受けても覚えられなかったが、トリケラトプスに似た恐竜で、握手はできない四足歩行タイプのため頭を撫でさせてもらった。
 その調子で四体の恐竜に触ってから、皇牙と一緒にエレベーターを待つ。