恐竜王の花嫁


 二つに分割されていた画面が一つになり、二頭の巨大恐竜が様々なカメラワークで映しだされる。
 見分けがつきやすいよう、二色のARマーカーが表示され、恐竜の動きを追った。
 競泳レーンに国旗や名前が出るような、本来そこにはないものを仮想的に表示するバーチャル・グラフィックスが、ダイナ・リーグには欠かせないのだろう。
 それがなければ、どちらが綾人なのかすぐにわからなくなってしまう。
 日奈子は青いマーカーがついている恐竜に注目し、手に汗を握りながら応援する。
 横では生餌四人衆が声を出して、「綾人さん頑張って!」「行け行け、そこだ!」と熱い声援を送っていた。
 巨大ビジョンの中では、恐竜同士が激しくぶつかり合っている。
 攻撃のたびに観客が興奮し、スタジアムが衝撃に揺れているようだった。
 青いマーカーをまとったティラノサウルス・レックスが、赤いマーカーの対戦相手に咬みついている。
「うわ……っ、血が!」
 噴きだす血を見て、日奈子は肩をすくめた。
 二頭は一旦離れてから暴走列車のような勢いで突進し、数トンの肉塊が衝突する。
 その衝撃で、遠い桜並木からハラハラと花びらが舞っていた。
 美しい春の情景に相応しからぬ、血なまぐさい戦いになる。
 攻撃は一方的ではなく、綾人も血を流していた。
 恐竜の動きは日奈子が想像していたよりもずっと速く、そして正確だった。
 綾人は巨体を低く沈めると、相手の喉元を狙って凶悪な(あぎと)を突きだす。
 ガリッ──と、鼓膜を削るような硬質な音が響く。
 黒ずんだ色の鱗と鱗が擦れ、火花散る攻防が繰り広げられた。
 どちらも異能力に頼ることなく、純粋な身体能力で戦っている。
 対戦相手の猛反撃を受け、綾人の脇腹から赤い飛沫が上がった。
 けれど彼は怯むどころか、自らの血の匂いに触発されたように目をぎらつかせる。
 太い尾を撓らせ、空気を切り裂く音と共に相手の脚を薙ぎ払った。
『グガアァァ──ッ!』
 赤いマーカーのティラノサウルス・レックスが、地響きと共に転倒する。