赤羽は首をすくめて「ごめんなさい」と謝りつつも、この状況を楽しんでいる様子だった。
「日奈子、どうだ? 俺は強引過ぎるか?」
「──いえ、あの……」
強引過ぎます──と言いたくても言えず、日奈子も首をすくめて小さくなる。
鞄の中ではスマートフォンがまた震えているようだった。
家族の誰からかわからないが、内容は見なくてもわかる。
夕飯の支度はどうしたんだと、文句を言っているのだろう。
このままスタジアムに行ってさらに帰りが遅くなったら、少しは心配するだろうか。
あの人達にそれは期待し過ぎだろうか。
自分はまだ、あの人達に愛されたいのだろうか。
いや、もう要らない。あの人達に期待したくない。
転校はともかくとして、寮があるというのは魅力的だ。
あの家を今すぐ出られるなんて願ってもないことで、本当は自分こそが、今夜中に引っ越したいのかもしれない。
──強引に……嵐に攫われるみたいに強引に、私を連れ去ってほしい。あの人達がいない世界に、私は行きたい。
畏縮して小さくなっていた日奈子は、意を決して顔を上げた。
車内のソファーシートの上で背筋を正し、隣に座る皇牙と目を見合わせる。
「家族仲、悪いんだろう?」
「──っ……はい。よく……ないです」
「うちも悪いからなんとなく想像がつく。俺達はきっとわかり合えるはずだ」
「ありがとう、ございます」
「──で、どうする?」
この人について行こうと思った。
知らない世界は怖いけれど、ついて行く。
もう要らないと言われるまで、この人について行く。
「今夜、引っ越します」
「日奈子っ」
皇牙は真っ白な歯列を見せて笑い、日奈子を抱き締めた。
