恐竜王の花嫁

 都内の市役所の竜人課に遺伝子証明書を提出し、施設内にある写真機で証明写真を撮って係員に手渡すと、ほどなくしてジーン・パスが発行される。
 顔写真と個人番号、竜人であることを証明するだけではなく、アタヴィズムであることも記載されていた。
「人間としての身分証明書を返却してください」
 窓口の係員にそう言われ、日奈子は少し怖くなる。
 自分の顔の横に竜人と明記されたパスには現実感があり、これが夢ではないことを感じ始めていた。
 それだけに怖い。人間である証明を手放すのは──。
「どうした日奈子、身分証明書を忘れたのか?」
「……いえ、持っています」
 日奈子は鞄から財布を取りだし、これまで使っていた証明書を引き抜く。
 怖さはまだ残っていたが、もう引き返せない気持ちもあった。
「俺が責任をもってお前を守る。心配しなくていい」
「──はい、よろしくお願いします」
 日奈子は皇牙に頭を下げてから、身分証明書を返却する。
 無事に受理されると、後ろに控えていた生餌四人衆がまた拍手をして、「ようこそ竜人の世界へ」「日奈子ちゃん、仲よくしてね」「日奈子ちゃん、よろしく」「ほんと戦隊物みたいに揃ったね」と笑っている。
「日奈子、ありがとう」
 皇牙からは礼を言われ、肩をそっと抱かれた。
 大切なもののように扱われると、これは本当に自分の身に起きていることなのかと疑いたくなる。
 嘘のようで夢のようで、またしても胸が熱くなった。
 日奈子は財布の中にジーン・パスを収め、冷静になるために深呼吸する。
 とりあえずこれを現実として捉えると、自分は確かに竜人になったのだ。
 何が変わるのかはわからないが、人生が大きく変わっていく予感がする。
 皇牙のあとをついて行く形で市役所を出て、日奈子はキャンピングカーに戻った。
「このあと竜王スタジアムに行くんだが、できれば日奈子も連れて行きたい。時間は大丈夫か?」
「……スタジアムって、ダイナ・リーグを観に行くってことですか?」
「ああ、俺の仕事上の秘書をしている九条綾人(あやと)が出る。応援に行かないと」