恐竜王の花嫁


 凡庸な自分がヒロインになれるはずがないので、日奈子は返事に困った。
 ただの夢なら「はい」と言ってもいいのかもしれない。
 でももし、もし万が一これが現実なら、簡単に答えられることではない。
 時々血液を提供する代わりに、金銭を受け取る生餌──一つの職業だと割り切れば済むのかもしれないが、本当にいいのだろうか。
 自分なんかが、竜王院皇牙の生餌になっていいのだろうか。
 いや、いいわけがない。
 現に生餌四人衆はとても綺麗だ。
 とびきり美しい皇牙の近くにいるのでそれほど目立たないが、単体で見れば全員がアイドルのように整った顔をしている。
 戦隊物を思い浮かべると、やはり自分なんか絶対に入れないと思った。
 紅一点のピンクが平凡な地味子なんて、あり得ない。
 たとえ皇牙がそれを望んだとしても、周りが、彼のファンが許さないだろう。
「頼む。アタヴィズムは数百万人に一人と言われるほどレアなんだ」
「……数百万人に一人……レア」
「肉食の竜人は人間の血を何より好むが、決して口にしてはならないルールがある。君が竜人になってくれたら俺は、ほとんど人間である君の血を合法的に飲めるんだ。しかもアタヴィズムの血は特に栄養価が高く美味だといわれている」
 いつの間にか手を握られていて、真っ直ぐに見つめられていた。
 こんなに美しい顔で「頼む」なんて言うのはずるいと思った。
 いくら身のほどを弁えていても、断れなくなってしまう。
 ──現実として、考えよう……念のため……。
 日奈子は皇牙に手を握られたまま、生餌という仕事について考えた。
 生餌四人衆の雰囲気からして待遇は悪くなさそうだ。報酬もきっといいのだろう。
 高校を卒業したらなるべく早くあの家を出て独り暮らしをしたいが、そのためには資金が要る。まず働いて、金を貯めなければ出ていけない。
「日奈子って呼んでもいいか?」
 皇牙に問われ、日奈子は「はい」と答えた。
 しかしこれは名前の呼び方に対する返事であって、生餌になるかどうかの返事ではない。