恐竜王の花嫁

 広いリムジンの車内で皇牙の隣に座りながら、日奈子はようやく一息つく。
 走ったので息が切れていたが、それも落ち着いて気持ちのほうも穏やかになった。
 皇牙も隣で「ふう」と息をつき、殺意や怒りを呑み込んで清々した顔をしている。
 繋いだ手は今も繋ぎっ放しで、離すのかなと思いきや恋人繋ぎに変えられた。
 皇牙の手は温かく、握る力は強いが痛くはない。
 むしろ気持ちよかった。
「日奈子、嫌な思いをさせて悪かった」
「──皇牙さんのせいじゃありません」
「いや、俺が昨日のうちに綾香に会って『金輪際近寄るな』と厳しく言っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない」
「皇牙さん……」
「アイツを甘く見ていた俺のミスだ」
 神妙な顔をする皇牙に、日奈子は首を横に振る。
 誰だって未来など見えてはいないのだから、思いがけないことになったのは仕方のないことだと思っていた。
 皇牙が悪いなんて少しも思わない。
「体、大丈夫か? どこか痛くなってきたりしてないか?」
「大丈夫です。運よく水の中にドボーンと上手に落ちたので、ほんとに怪我とかしてないんです」
「長時間ずっと水に浸かっていて疲れたよな、今日は早く休んだほうがいい。夕食はシェフに作らせるから。それともデリバリーがいいか?」
 日奈子は少し考えて、急に作らせられるシェフが気の毒だと思い「じゃあ……デリバリーでいいですか?」と訊いてみた。
「もちろんだ。うな重でも取るか?」
「わ、それはいいですね。元気が出そうっ」
 喜ぶ日奈子に、皇牙はしっとりと微笑み掛ける。
 その顔があまりに綺麗で……そして殺意を燃やしていたのが嘘のように穏やかで、日奈子は心底安堵した。
「日奈子、お前に渡したい物がある」
「……はい」
 皇牙はおもむろに手を離すと、懐に手を入れる。
 取りだしたのは白くて小さな箱だった。