恐竜王の花嫁


 着物を着慣れている所作で膝をついて畳に座り、「皇牙様!」と声を張り上げた。
「私は皇一郎様と玲華様に認められた正式な婚約者です! 家柄や容姿はもちろん、T・レックスに変容できることも高い評価を受けています! 新しい恐竜王の花嫁に相応しいのは、この私です。目を覚ましてください! そんな子、アタヴィズムじゃなかったらなんの価値もありません。生餌以上にするなんてとんでもない! 貴方とお似合いなのはこの私です! お願いだから目を覚ましてください!」
 目を覚ましてと二度も言った綾香は、着物の衿元を押さえながら自分を売り込む。
 日奈子は綾香の勢いに呑まれ、言いたかったことも言えずに息を呑んだ。
 まさか罪を認めないとは思わなかったし、この期に及んで婚約者として自分を売り込むなんて思いもしなかった。
「臭いな……相変わらず香水臭くて敵わない。肉食竜人は鼻が利く分、香水なんかは苦手なんだ。お前だって肉食竜人ならわかるだろうに」
「……っ、え?」
「以前から言いたかったが、お前がいると飯が不味くなる」
 皇牙はそう言って空気を払う仕草をすると、身を乗りだしている綾香を睨む。
 臭いと言われて驚愕している綾香に向かって、さらに口を開いた。
「それと、失礼な発言は控えてくれ。お前のような頭の悪い性格ブスと、この俺がお似合いだなんてとんでもない。釣り合いなんかまったく取れていない。高望みもいい加減にしろ」
 皇牙が声を低めて放った言葉に、綾香は呆然としている。
 自分に向かって放たれた言葉だと思いたくないのかもしれない。
 耳を疑っている様子で、黒い瞳をあちこちへと揺らめかせた。
「金輪際、俺にも日奈子にも近づくな。それとこれを、明日の朝九時までに提出しろ。もし九時を過ぎても提出されていない場合、問答無用で退学処分にする」
 皇牙は胸元から一枚の書類を出すと、それを綾香の前に置く。
 綾香の視線は書類に書かれた『退学届』の文字に釘付けになっていた。
「退学!? 私が退学ですって!? え、何? 自主退学しろってこと!?」
「俺としては殺人未遂で警察に届けたうえで退学処分にしたいところだが、日奈子と綾人に免じて自主退学のみにしてやると言っているんだ。感謝しろ」