期待に満ちた、明るく可愛い声だった。
おそらく皇牙の訪問を喜んでいるのだ。
その事実に日奈子は驚き、綾香の浅はかさに呆れる。
あれほど証拠が残る杜撰で突発的な犯罪行為をしておいて、それがバレる可能性を考えていないのだろうか。
他人を平均点女と罵倒するのだから成績は悪くないだろうに、あまり頭がいいとは思えなかった。
「皇牙様……お兄様……っ」
嬉々として障子を開けた綾香は、赤が基調の素晴らしい振袖を着ていた。
しかし表情は愕然としてすぐに変わり、幽霊でも見るような目で日奈子を見下ろす。
なんで貴女がここにいるの──そう怒鳴りたいのをこらえている顔だった。
「綾香……お前っ、なんてことをしてくれたんだ!」
「お兄様!?」
綾人は立ち上がるなり手を振り上げ、綾香に平手打ちを食らわせる。
髪が乱れる勢いで引っ叩かれた綾香は、わなわなと怒りに震えていた。
「私が何をしたって言うのよ!」
「しらばっくれる気か!? 日奈子さんを井戸に落としておいて、よく平気な顔をしていられるな! 本来なら豚箱行きになってるところだぞ!」
「私がやったっていう証拠でもあるの!?」
「防犯カメラにお前が映っていた! 雑木林に向かって日奈子さんを引きずって行くところを目撃した生徒もいる。自分のしたことを認めて日奈子さんに謝れ!」
「謝れですって!? 冗談じゃないわ! 私が井戸に落としたって証拠でもあるの!? 自分で落ちて被害者面して気を引こうとしてるんじゃない!?」
「綾香、いい加減にしろ! 井戸まで無理やり引きずられた跡が残ってた! 井戸の蓋にはお前の指紋がついてるはずだ!」
「そんなの知らないわよ! だいたいねぇ、そんななんでも平均点みたいな、普通の子が皇牙様の生餌になるのが間違いなのよ! おとなしく血だけ捧げてればまだいいものを、婚約者なんてとんでもないわ! 釣り合いが取れてないのよ!」
「綾香!」
綾人がもう一度手を振り上げると、綾香はさっと避けて皇牙の前に進みでる。
