恐竜王の花嫁

 第一寮の自室で風呂に浸かった日奈子は、「急がなくていいから、しっかり温まるように」という皇牙の言葉を受けて、それなりにゆっくりと体を温めた。
 髪も根元までよく乾かし、クローゼットの中から一番気に入っているワンピースを取りだす。
 今日はジュエリーも着けないし、化粧もしない。もちろん香水も使わないけれど、いい服を選んだのは自分なりの武装だった。
「日奈子ちゃん、可愛い! そのワンピース凄い似合ってる!」
「日奈子ちゃん、体は大丈夫? ちゃんと温まった?」
「綾香様にがつんと言ってやりなね!」
「その服なら負けないね!」
 第一寮のエントランスでD4に見送られながら、日奈子は「ありがとうございます。いってきます」と手を振ってリムジンに乗り込む。
 皇牙と綾人と三人で、都内にある九条家に向かった。
 綾香と対峙することへの恐怖で震えそうになる手を皇牙に握られ、到着までずっと手を繋いでいた。
 車内での会話はほとんどなく、綾人が「本当に申し訳ありません」と、日奈子にも皇牙にも謝る声が響いた。
 いくら謝っても気が済まないようで、何度も何度も──。
 九条家に到着して車を降りた時には、西日が強く射していた。
 九条家の邸宅は、周囲の住宅街とは明らかに一線を画す威容を誇っている。
 視界を遮るように長く続くのは、格式高い白壁の塀だ。
 その上部を飾るいぶし銀の瓦が、傾き掛けた西日を跳ね返しながら鋭い光を放っている。
 燃えるような茜色の空の下で、日奈子は再び皇牙に手を握られた。
「大丈夫か?」と訊かれ、すぐに「はい」と答えて手を握り返す。
 玄関に向かうと、女中と見られる女性が対応してくれた。
 皇牙ははっきりと「綾香に会いたい」と言い、客間と思われる和室に通される。
 三人並んで座布団の上に座り、綾香が出てくるのを待った。
 お茶を出されたが、皇牙も綾人も手をつけなかったので、日奈子も同じようにする。
 綾人が「遅いな……」と不満げに呟き、実の妹に苛立ちを見せた頃、床が軋む音が聞こえてきた。
「皇牙様?」
 障子の向こうから綾香の声が聞こえる。