恐竜王の花嫁


「あんな女、殺人未遂で豚箱入りになればいいんだ」
 皇牙は怒りに燃えた目をして、スマートフォンを操作する。
 心の声も大きく届き、『殺してやりたい!』と強い殺意を持っていた。
 日奈子は「駄目……」と呟き、皇牙のスマートフォンの画面にそっと手を乗せる。
 操作ができないようにしながら、強い意志をもって皇牙の顔を見上げた。
「やめましょう、私……すぐにお風呂に入りたいし、警察沙汰とかは……」
 お願いだからやめてください──目でも訴えると、皇牙の表情に迷いが生じる。
「皇牙様、私からもお願いいたします。愚かな妹ではありますが、警察に突きだすのだけは勘弁してやってください。十分に反省するよう、よく言い聞かせますので」
 綾人は雑木林の中で膝をつき、皇牙に向かって土下座をする。
 これには皇牙も戸惑って、「やめろっ」と声を荒らげていた。
「皇牙様……お願いします、前科者になるのだけは勘弁してやってください」
「綾人……」
「皇牙さん、私からもお願いします」
 日奈子と綾人に止められて、皇牙は不承不承ながらスマートフォンをしまう。
 そしてジャケットを脱ぐと、それを日奈子の肩に掛けた。
「すぐに風呂に入ったほうがいい。俺は綾香のところに行ってくる」
「私も行きます。お風呂に入る間、待っていてもらえませんか?」
「……それは構わないが、大丈夫なのか? 念のため医者に診せて安静にしたほうがいいんじゃないか?」
「大丈夫です。本当に怪我とかないし、この通り元気ですから」
 日奈子は自分の胸をばしんと叩き、無事であることをアピールする。
 借りたジャケットの温もりに包まれながら、綾香のことを考えた。
 般若のような彼女にまた会うのは正直嫌だけれど、皇牙が一緒なら怖くはないし、決着はつけたい。
 綾香に言いたいことがある。
「寒かっただろう? 気づくのが遅れて悪かった」
「大丈夫です。私こう見えて案外丈夫で、風邪とか滅多に引かないんですよ」
 日奈子は努めて笑い、もう一度ばしんと胸を叩いた。
 すると皇牙が祈るような顔をして、ジャケットごと抱き締めてくれる。
 周囲の視線を気にすることなくぎゅうぎゅうと強く抱いて、「無事でよかった……本当によかった」と溜め息をついた。