──大丈夫……今の私には皇牙さんがいる。味方がいる。家にも学校にも居場所がなかったあの頃とは違う。私を必要としてくれる人達がいる。信じられる人達がいる。だから泣いたり喚いたりしないし、風邪も引かない。全部吹き飛ばす!
日奈子は自分の腕を強くさすりながら、闇の中で深呼吸する。
生臭い水の臭いにも慣れて、このくらいどうってことないと思うことができた。
数時間後に確実に助けてもらえると信じていたので、本当に怖くない。
この状況は絶望とは無縁の、単なる待ち時間に変わったのだ。
「──っ、ぁ……」
井戸の底でひたすら待っていると、微かに人の声が聞こえてくる。
日奈子、日奈子──そう言っているようだった。皇牙の声に間違いない。
他にも「日奈子ちゃーん!」「日奈子さーん!」と聞こえてきて、D4や綾人が来てくれたのがわかる。
「ここです! 井戸の底にいます!」
声が届くかどうかはわからなかったが、初めて大きな声で助けを呼んだ。
体力を温存しておいてよかったと思うくらい、力強い声が出た。
「日奈子!」
金属製の重そうな半円の蓋がどかされ、皇牙の声が直に届く。
ああ、皇牙さんだ。やっぱり来てくれた──そう思うなり視界が歪んだ。
どうしても涙が潤んでしまい、「はぁ……」という安堵の声しか出せなくなる。
もっと言いたいことがあるのに……できることなら今すぐに、「縄梯子を下ろしてください。一人で上がれますから!」と言いたいのに、涙で声にならなかった。
身を乗りだして井戸を覗き込む皇牙の顔が、底からでもはっきりと見える。
もう逆光ではなくなっていて、ショックを受けている表情までわかった。
ああ、本当に言わなきゃと思う。「無事ですっ、怪我もないです!」とそう言って、すぐに安心させたいと思う。でも言えない。
今になってひっくひっくと子供のように泣いてしまって、皇牙の名前を呼ぶことすらできなかった。
「日奈子! 今すぐ助けに行く!」
皇牙の声が井戸に反響する。
日奈子は泣きながら首を横に振った。何度も何度も大きく振った。
