ショーのように面白がり、日奈子の不幸を願って嘲っていた。
「離して……っ、離して!」
綾香を止めてくれるような味方は一人も現れず、日奈子は上履きのまま校舎の外に連れて行かれる。
綾香も上履きのままで、土が剥きだしになった地面を歩き続けた。
彼女はもう正気ではないのかもしれない。
絶えず『殺してやる!』と殺意を燃やして、日奈子を校舎裏にある雑木林の中へと引きずり込む。
日奈子は途中何度もしゃがみ込んで抵抗したが、雌のティラノサウルス・レックス竜人である綾香の圧倒的な腕力に負け、制服をどろどろにされながら引っ張られた。
「離して! 離してよ!」
「皇牙様は私のものよ! あの人に一番相応しいのは私なの!」
「やめて……っ、離して!」
「貴女なんか死ねばいいのよ! 死ねばすぐに忘れられるわ! 皇牙様はきっと目を覚ます! こんなつまらない平均点女のことなんか、すぐに忘れるわ!」
腕が痛くてたまらなかった日奈子は、雑木林の中に古びた井戸を見つける。
そこが綾香の目的地だとわかると、全身にぶわりと鳥肌が立った。
「やめて! いい加減にして! 離して!」
「この井戸、結構深いのよ。叫んだって誰も助けにこないわ!」
「いやっ! やめて!」
日奈子は爪を立てて綾香を引っかいたり足をばたつかせたりして、必死に抵抗する。
けれども綾香の腕力にはまるで敵わず、遂には空高く持ち上げられてしまった。
「……っ!」
やめて、やめて──もう声にすらならない悲鳴と共に、井戸に落とされる。
長く続く真っ暗な闇と、正午の強烈な光が同時に見えた。
衝突と痛みを覚悟した体が、どぼんと水の中に落ちる。
もしも枯れ井戸だったら足の骨が折れるなどの大怪我をしていたかもしれないが、幸い底にはたっぷりと水が張っていた。
頭まで一旦すべてが沈み込み、今度は溺れ死ぬ恐怖に晒される。
