「なめてなんかいません」
「なめてるわ、平均点女の分際で私を馬鹿にしてる!」
めらめらと燃えるような目をした綾香は、突然手首をつかんでくる。
黒い瞳孔を囲む虹彩が赤く見えて、日奈子は皇牙の目を思いだした。
ティラノサウルス・レックスに変容できる皇牙と同じ色の目を、綾香は持っている。
つまり今ここで恐竜化できるのだと思うと、背中がたちまち寒くなった。
まさかそんなことはしないだろうが、変容されて咬まれたら命はないだろう。
法治国家だから安全だと思っていたけれど、本当に安全なのだろうか──ティラノサウルス・レックスの竜人はプライドが高いと、竜王院玲華が言っていた。
しかも雌のほうが気が強いと聞いている。
「は、離してください」
「いやよ! 離さないし、許さないわ!」
怖くなってきた日奈子の手首を、綾香はさらに強く握った。
華奢な女の子の力じゃない──そう思うくらい握力が強く、骨が軋む。
綾香は日奈子の手首を引っ張り、安全地帯である個室から出ようとした。
日奈子は拒んで「やめて、離してっ!」と抵抗したが、大人と子供くらい力の差があってどうにもならない。
──皇牙さん!
スマートフォンを鞄に入れていたことを思いだし、日奈子は激しく後悔した。
制服のポケットに入れておけば、今すぐ片手で操作することができたかもしれない。
皇牙に助けを求めれば、きっとこんな怖い思いはしなくて済むのに……あっと言う間に廊下に引っ張りだされ、ずんずんと歩いて行く綾香に引きずられる。
「ちょっと、ほんとにやめて!」
階段でどうにか手摺をつかみしゃがみ込んで抵抗したが、腕を引っこ抜かれそうな怪力で引っ張られるとどうにもできなかった。
「だ、誰か……っ」
誰か助けてと叫びたい日奈子に、通り過ぎる生徒達が『このブス!』『死ね!』と思念を投げ掛けてくる。
皆一様に笑っていた。
