「──わずかだが、草食竜人の……血の匂いがする」
彼はそう言って、日奈子の顔をじっと見た。
至近距離で見つめられ、日奈子は夢だと思いながらも恥ずかしくなる。
アイドルグループのような生餌四人衆は、「えっ」と声を揃えて驚いていた。
皇牙から真っ赤なウェットティッシュを受け取ると、四人で顔を寄せてすんすんと血の匂いを嗅ぐ。
「……うーん、わかりません」
「僕もです」
「僕も全然わかりません」
「普通に鉄っぽい匂いがするだけですね」
四人がそれぞれに言うと、皇牙は「それはお前達が草食竜人だからだ」と断言し、爛々と目を輝かせた。
皇牙の目は瞳こそ黒だが虹彩は赤く、雰囲気的なものではなく本当に……きらりと輝きだしたように見える。
「肉食竜人は鼻がいいんだ、間違いない。魅惑的な人間の血でありながら、わずかに草食竜人の匂いがする」
「病院で調べてもらったらどうですか?」
「そうするつもりだ。君、怪我の手当ての他に遺伝子検査を受けてもらえないか?」
日奈子は今自分が見聞きしているものを現実だと思っていないので、「はい」とも「いいえ」とも言わなかった。
答えなくてもこの夢は勝手に進んでいき、やがて目覚めるだろう。
それにしてもおかしな夢だ。
つくづく図々しくて恥ずかしくなる。
平凡を絵に描いたような自分に……どこにでもいそうな自分なんかに、竜人の血が流れているわけがないのに──。
「俺は竜王院皇牙、ダイナ・リーグ、エイペックス級の選手で、実業家でもある大学生だ。君の名前は?」
「──桃井、桃井日奈子……高校生です」
名乗ると、なぜか「桃井? 桃色の桃?」と苗字に食いつかれる。
こくりと頷くなり、生餌四人衆がわっと沸いた。
「日奈子ちゃん、これは奇跡かもしれない。僕は赤羽で……」
