「日奈子に近づくなと言っておく。それから婚約者を名乗るなとも言っておく。俺が求婚したのは日奈子だけだし、一生一緒にいたいと思うのもお前だけだ」
「皇牙さん……」
日奈子が今一番欲しかった言葉をくれた皇牙は、照れた様子で目元を隠す。
大きな手で隠れた目元は、少し赤くなっているように見えた。
「怖かっただろう? ティラノは基本的に雌のほうが気が強くて、夫婦間でも立場が上になることが多い。うちの親の場合もそうだ……父親は入り婿で竜王グループの副総裁、母親は総裁を務めている。とにかく気が強い女ばかりだ」
「そうだったんですか……雌のほうが気が強いなんて全然知りませんでした。英会話だけじゃなく、恐竜のことも勉強しないといけませんね」
「知らなくていい。俺は今のままのお前が好きだ」
初めて「好きだ」と言われて、日奈子は胸の中に花が咲いたような心地になる。
今一番欲しかった言葉は、これだったのかもしれないと思い直した。
この瞬間を一生忘れないようにしようと思う。
あえて意識しなくても、きっと忘れることはないだろう。
皇牙が「今のままのお前が好きだ」と、はっきり言ってくれた。
その言葉に甘えていては駄目だと思うので、徐々にアップグレードしていきたいが、他の誰かを目指す必要はないのだ。
自分は自分のままでいい。
このまま、ある程度英語が話せるようになったり料理のレパートリーを増やしたり、恐竜や竜人社会のことにもう少し詳しくなったりすればいい。
──私は皇牙さんの婚約者として相応しい資質を持ってはいないけど、皇牙さんは私に自信をくれる。一番大切なものを教えてくれる。
日奈子は思い切って皇牙の髪に触れ、心の赴くままに彼の頭を撫でた。
好きだと思う気持ちが膨らんで、触れずにはいられなかった。
するりと逃げる髪に触れながら、「好きです」と告げる。
「日奈子……」
皇牙は日奈子の手を取り、指を絡ませた。
そうしながら起き上がると、日奈子のうなじに手を伸ばす。
キスをされるのだとわかった。
顔と顔がゆっくりと近づき、唇同士が触れる。
その瞬間……好きだと思った。愛していると思った。
この人と一生、ずっと一緒に生きていきたい──そう思った。
