恐竜王の花嫁


「はい、お願いします。よかった、私……保健室に行くことが多くて、授業にあまり集中できない環境だったので、英会話は特に苦手意識があったんです。英語の成績も平均点くらいだし……」
「お前が英語を話せないと俺が恥をかくなんてことはまったくないが、話せたほうが便利で楽しいのは確かだ。やる気があるなら応援する」
「ありがとうございますっ」
 わーいと音の出ない拍手をする日奈子に、皇牙は「それだけか?」と訊いてくる。
 他にもっと何か言われなかったかと訊いているようだったが、日奈子は首を斜めに向けて「特に問題ありません」としか言わなかった。
 兄である綾人の前で綾香を悪く言いたくないし、皇牙に心配を掛けたくない。
 自分に向かって『死ね』だの『殺してやる』だのと思念をぶつけてくるのは綾香に限ったことではなく、いちいち言うほどのことではないと思っていた。実際に危害を加えられることなんて、この法治国家ではあり得ないのだから──。
「今夜、このあと俺の部屋に来ないか?」
「……え?」
 イチゴを食べながら誘われて、日奈子の顔は瞬時に熱くなる。
 なんだか甘い予感がした。
 イチゴのように甘酸っぱい予感だ。
 鼻の奥に残っていた毒々しい香水の匂いが、イチゴの香りに上書きされる。
 二人きりでゆっくり話したことは実はほとんどないので……日奈子としても皇牙と二人の時間を過ごしたいと思っていた。
「なんか……いつもお邪魔してすみません。夕食、私はもう遠慮したほうがいいんでしょうか?」
「え……っ、いえ、そんなことは全然。四人分作るのがくせになってるし、綾人さんさえよければこれからも作らせてください」
「二人きりの時間は別に取るから大丈夫だ」
「そうですか? そう言っていただけると嬉しいです。お言葉に甘えて、これからも御一緒させていただきます」
 綾人は「ごちそうさまです」と手を合わせ、安心したように息をつく。
 綾香と顔立ちが似ていてクールに見えるものの、中身はまったく違っていた。
 毒気がなくて清々しい人だと改めて思う。ティラノサウルス・レックスに変容して戦うのが嘘のように穏やかで、情緒の安定した大人の男性だ。