「竜人になったばかりの貴女は知らないでしょうけれど、竜王院家と九条家は有数の名家なの。私は皇一郎様と玲華様から選ばれた正式な婚約者だし、誰よりも皇牙様に相応しいと自負してるわ。家柄も容姿もT・レックスに変容できる竜人であることも、全部が全部ぴったりなの。貴女まさか……自分が皇牙様に相応しいなんて間違っても思ってないわよね?」
「──それは、思ってません、けど……」
自信満々に語る綾香を前に、日奈子は自分が如何に何も持っていないかを思い知らされる。
家柄はもちろん、容姿も平凡で皇牙とは釣り合わないし、恐竜に変容したりもできない。綾香がT・レックスに変容できるならば、皇牙の結婚相手として相応しいのは彼女のほうだと思った。あえて考えるまでもない、比べる余地すらない。
「貴女、英語は得意かしら?」
「……え、いえ……だいたい、平均点くらいです」
「平均点!? ああ、なんて貴女にぴったりな言葉なの! 顔もスタイルも頭の中身も平均点。すべてがパーフェクトな皇牙様には不釣り合いよ。皇牙様の妻になるなら、英語くらいペラペラじゃなきゃ駄目。パーティーで恥をかくのは皇牙様なのよ」
「──ぅ、それは……」
「貴女みたいな平々凡々な子に誑かされるなんて、皇牙様も甘いわね」
「私、誑かしてなんて……」
「とにかく正式な婚約者は私なの。貴女が婚約者面して登校して、こうやって個室に籠もって特別扱いされてるのが気に入らないわ。自分のレベルを考えてさっさと身を引いてちょうだい。いいわね?」
「──っ」
いい香りだと感じていたはずの匂いが、いつの間にか不快なものになっていた。
洗練された女性の香りだと思ったのに、今は毒々しいと感じてしまう。
胃の辺りが重たくなり、次第に気分が悪くなってきた。
綾香の言葉一つ一つが凶器のようで、胸に刺さる。
反論できたらいいのに、できないことばかりだった。
皇牙が自分の何を気に入ったのか考えてみると、彼女が言う通り「家庭的」という部分が大きい気がする。家庭の味を知らない皇牙に毎日家庭料理を振る舞い、皇牙の弱み──閉所恐怖症のことを知ってしまった。
皇牙にとって自分は、ほっと一息つける存在なのかもしれない。
