恐竜王の花嫁


 心の中では『死ねよ、このブス!』と思いながら、「皇牙様と婚約したんでしょ? 超羨ましー。日奈子ちゃんほんと可愛いもんね」と媚びを売られたり、すれ違い様に「ブース」と言葉ではっきり言われたり、もう何がなんだか……心の声なのか実際の声なのか区別がつかなくなるくらいごちゃ混ぜな、嫉妬と欺瞞の渦だった。
 ──登校するだけで、メッチャ疲れた……。
 なんとかいつもの個室に辿り着き、鞄を置いて「はぁ」と息をつく。
 皇牙がそれなりに広い個室を用意してくれたおかげで、ここのいる間は罵詈雑言を浴びる心配はない。
 一歩出たら地獄だが、とりあえず安全な場所があることが救いになっていた。
 トイレで他の女生徒と顔を合わせるのが怖かったので、トイレに行きたい時は休憩時間ではなく授業中に行くようにしていた。
 そのくらい防衛しないと、トイレで何か意地悪を……たとえば個室から出られないようモップで扉を塞がれたり、上から水を掛けられたりといった、漫画にありそうな展開が待っている気がして恐ろしかった。
 もちろん昼食は学食などには行かず、弁当持参だ。
 そうして六限目までオンライン授業を受け、婚約者になってからの初日がなんとか無事に終わろうとしていた。
 下校時にまた嫌なことがあるかもしれないが、スーパーに行くまでの辛抱だ。
 ──よし、帰ろう!
 登校時と同じように気合を入れた日奈子は、画面のスイッチを切って席を立つ。
 すると同時に、ノックの音が聞こえてきた。
 嫌な予感がする。また結衣花が来たのかと思った。
 昨夜の試合を観ていたなら、今頃は(はらわた)が煮えくり返っているはずだ。
 日奈子は緊張して何も返さなかったが、扉がスッと開かれる。
 結衣花の来訪を告げにきた教務課の女性かと思いきや……日奈子と同じ制服を着た女生徒が立っていた。
「御機嫌よう、貴女が桃井日奈子さんね?」
 すらりと背の高い女生徒は、腰まである長い黒髪を靡かせながら入ってくる。
 一目見て、綺麗な人だなと思った。
 目が大きく唇が赤く、スタイルがいい。まるでモデルのようだ。
「桃井日奈子さん、そうなんでしょう?」
「あ、はい……桃井日奈子です」