ネガティブな心の声を浴びることを覚悟しながら、日奈子は一人で部屋を出る。
エレベーターに向かってボタンを押すと、背後から扉の開閉音がした。
振り返ると、皇牙がパジャマ姿で部屋から出てくるところだった。
「皇牙さんっ、おはようございます」
「おはよう日奈子」
皇牙は室内履きで廊下を歩いてきて、日奈子の前に立つ。
エレベーターはもう来ていたが、日奈子は乗らずに寝起きの皇牙を見上げた。
髪型が普段と違っているのも、シルクの艶々としたパジャマ姿も新鮮で……思わずぽうっと見惚れてしまう。芸能人のオフショットという感じで、崩れたスタイルすら様になっていた。
「日奈子、いくら個室を利用しているとはいえ完全に周りの声を遮断できるわけじゃないし、登下校時に誰かが嫌なことを言ってきたり、言葉では何も言わなくても心で思っていたりするかもしれない」
「はい……覚悟してます」
「お前に意地悪をする奴がいたら、必ず言えよ。誰であろうと、目の前から排除してやるからな」
「皇牙さん……」
なんて頼もしい婚約者なんだろう──そう思って微笑むと、そっと肩を抱かれる。
唇が近づいてきて、額に軽くキスをされた。
「いってらっしゃい」
「……は、はい。いってきますっ」
日奈子は心の中でキャーキャーと悲鳴を上げながらエレベーターに乗り込む。
皇牙は扉が閉まるまで目の前に立っていてくれて、バイバイ……と軽く手を振ってくれた。
皇牙の見送りでさらに力を得た日奈子は、背筋を正して高等部の校舎に向かう。
絶対にそうなるとわかってはいたが、四方八方から心の声が……罵詈雑言が飛んできて、むしろ多過ぎて声が重なり合い、誰が何を言っているのかわかりにくいほどの有り様だった。
釣り合いが取れないだのブスだの死ねだの……挙げ句の果てに売女とまで言われ、むかむかするが反論するわけにもいかない。
散々なことを心で思っているにもかかわらず、「日奈子ちゃーん、おはよう」と、見ず知らずの生徒から馴れ馴れしく声を掛けられたりする。
