恐竜王の花嫁


 鼻に抜ける爽やかな香りはどこまでも濃く、神の食べ物というキーワードが脳裏に浮かぶ。それくらい贅沢な味わいだった。
「うん、これは旨いな」
「ですよねー」
 皇牙と顔を見合わせながら食べると、美味しさがさらに際立って感じられる。
 父親が買ってきたフルーツサンドを、見なかったことにするしかなかったあの日の自分の淋しさが、この一粒の輝きで綺麗にかき消されるようだった。
 今の自分は、人生で一番甘い時間を食べている。
「あとで部屋を案内するからな」
「他のお部屋も見せてもらえるんですか?」
「婚約者だからな、バスルームから寝室まで全部見せる」
「婚約者……」
 皇牙の口から出た言葉が、日奈子には未だに夢のように感じられた。
 自分が皇牙の婚約者だなんて嘘のようだけれど、くすぐったいほど嬉しい。
 赤羽が肘でちょいちょいとつついてきて、「婚約者だって、フィアンセだねー」と茶化してくる。
 恥ずかしくて「キャーッ」と悲鳴を上げたい気持ちを抑えつつ、日奈子はフルーツサンドで口を塞いだ。
 あまり舞い上がってはいけないと思うのに、綾人とD4の前では素直でいられて、思うままに笑い、赤くなっているのが自分でもわかるほど照れる。恐縮せず自由に堂々と振る舞えることが嬉しくて、日奈子は味方のいる幸せを感じていた。


 翌日の月曜日、日奈子は起きるなり「よしっ」と自分に気合を入れた。
 昨日の祝賀会は最高に楽しかったし、親友のルナから届いていた婚約おめでとうのメッセージも嬉しかったけれど、厳しい現実はこれからだ。
 頼もしい味方は確かにいるが、学校では一人になる。
 皇牙も綾人もD4もルナもいない世界で、今から戦わなくてはならない。
 ──針の筵だとしても、絶対負けない。私は皇牙さんが好きで、皇牙さんは私との交際を望んでくれてる。それが一番大切な事実だから、誰に何を言われても……何を思われても、絶対負けない。