恐竜王の花嫁

 気づいたときにはテレビが割れていて、埃まみれの床にグラスの破片が飛び散っていた。
 竜王院親子のドリームマッチを自宅のテレビで観戦していた結衣花は、わなわなと震える手でリモコンを握る。見たくないシーンを消したくてグラスを力いっぱい叩きつけたのに、テレビはまだ死んでいなかった。
 リモコンの電源ボタンをぐいぐい押して、ようやく映像を消す。
 それでもまったく心は晴れない。
 今ここで嫌なものを消しても、実際にはどうにもならないのだ。
 恐竜王になった皇牙が、公然と姉に求婚した。
 地味だったはずの姉はセンスのいい如何にも高そうなワンピースを着て、認めたくないが少しばかり綺麗になって……あろうことか皇牙の求婚を受けた。
 地味子の分際で、図々しくも自分から彼の頬にキスをしたのだ。
「結衣花! 何やってんのよ!? テレビ壊れたじゃないの!」
 母親から怒鳴り散らされながら、結衣花はリモコンを振り上げる。
 今も姉が映っている気がする忌々しいテレビに投げつけ、さらに破壊した。
 黒い画面の亀裂が酷くなったうえに、リモコンも壊れて破片が飛び散る。
 しかし何をしても怒りは治まらない。
 あんな光景は絶対にあり得ないと、全身全霊を籠めて否定する。
 父親からも「結衣花っ、いい加減にしないか!」と太い声で怒鳴られた。
 無視すると頭を叩かれ、火に油を注がれたように怒りが燃え上がる。
「何すんのよ! 不倫リストラ男が偉そうに!」
「……っ、な、なんだその口の利き方は! 親に向かって……っ」
 衣類や書類で取っ散らかったリビングで、結衣花は侮蔑を込めて父親を睨み据えた。
 姉の日奈子が出て行ってからなぜかよくないことが続き、父親と部下の女性の不倫関係が会社に知られ、父親は退職を余儀なくされた。再就職しようとハローワークに通っているが、プライドが邪魔して上手くいっていない。
 出世欲が強いキャリアウーマンだった母親も、領収書の偽造による横領が発覚して懲戒解雇になった。今はパチンコ店の景品交換所で働いているが、親戚や近所の人に隠すためにわざわざ遠く離れた店舗を選んでいる。
「こんな大画面のテレビ、もう買えないのよ! なんてことすんのよ!」