恐竜王の花嫁


 皇牙も水から出てきて、二頭は再び平原で向かい合った。
 仕切り直しても形勢は変わらず、やはりウエイトで劣る皇牙が不利だ。
「皇牙さん!」
 日奈子の祈りと叫びが届いたのか、皇牙がこちらを見る。
 そして「勝つから見てろよ」とでも言うように、こくりと頷いた。
 ティラノサウルス・レックスの姿をしていても、間違いなく皇牙だと感じられる。
 日奈子は涙をこらえて、うんうんと頷き返した。
 絶対勝つと信じてます──と心で念じる。
 皇牙は体のわりには小さな前肢を突きだし、上体を少し丸めた。
 両手が光り始め、念動力を使う気なのだとわかる。
 恐竜バトルで観客がもっとも喜ぶのは、異能力が使われる時だ。
 皇牙が念動力での戦いに持ち込んだことで、きっと今頃、スタジアムは最高の盛り上がりを見せているだろう。
「無理よ、皇一郎さんは異能力でも皇牙を上回るわ」
 玲華の呟きに、日奈子はびくっと立ち尽くした。
 ウエイトで負け、異能力でも負けるのでは皇牙に勝ち目はない。
 けれども皇牙が異能力バトルに持ち込んだ以上、きっと勝機はあるはずだ。
 ──皇牙さんは私の血を吸ったばかり……だから大丈夫、力が漲ってる!
 日奈子は皇牙に吸われた首筋を押さえながら、自分の血を信じる。
 皇牙の中で自分の一部が大きなエネルギーとなることを信じて、「皇牙さんっ! 絶対勝って!」と声援を送った。
 間隔を開けて睨み合う皇牙と皇一郎の周囲で、岩が宙に浮かぶ。
 念動力によって浮かされた物体が、目の前の敵に迷わず向かって行った。
 特に大きな岩と岩が宙でぶつかり、片方が砕かれる。
 勝利したのは皇牙が放った岩だった。
 それがそのまま皇一郎の顔を目掛けて飛んでいく。
 自分の頭ほどの大きさがある岩の攻撃を受け、皇一郎の巨体がぐらりと揺れた。
 皇牙はさらに岩を浮かせて、皇一郎を再び滝壺まで追いやる。