隣で見ていた綾人が、驚愕に目を見開いた。
皇牙の動きは、これまでの試合とは一線を画しているようだった。
日奈子が見ても差がわかるくらい、敏捷性が増してフットワークが軽い。
自分が捧げた血が、彼の細胞一つ一つを極限まで活性化させているのかもしれない。
そう思うと胸が熱くなった。少しは役に立てたのだ。
自分の血は彼の血となり肉となり、今一緒に戦っている。
皇牙は皇一郎の巨体を見切る鋭いステップで、死角へ回り込んだ。
強靭な太い尾を鞭のように撓らせ、皇一郎の後肢を強かに打つ。
普段ならば敵の基軸がぶれ、思い切り攻め込む隙が生まれる攻撃だが、皇一郎には効いていない。
皇一郎のウエイトはあまりにも重く、皇牙の一撃にまったくぶれなかった。
そして攻撃したことにより隙が生まれた皇牙に、皇一郎が襲い掛かる。
圧倒的な咬合力を見せつけ、皇牙の肩を掠め取るように食いついた。
肉を裂く鈍い音が聞こえる。
血が噴きだし、皇牙の表皮が赤く染まっていく。
「皇牙さん!」
日奈子は思わず立ち上がり、目を背けたくなるような攻撃に心を痛める。
この状況でなんの役にも立てないことがもどかしく、観ているのがつらかった。
「心配しなくても大丈夫よ、T・レックスはプライドが高い生き物なの。この程度で降参しないわ」
玲華に声を掛けられ、日奈子はへなへなと椅子に座る。
勝利を信じて祈り、応援することが自分の役目なのだと思いだした。
今できることはそれだけなのだから、怖くても戦いを見続けなければならない。
「皇牙様は、敏捷性と体力で皇一郎様を上回ると思います。バトルが長引けば不利になるのは皇一郎様のほうです」
綾人の言葉に、日奈子は大きく頷いた。
皇一郎は圧倒的に強く見えるが、皇牙ほど動きが速いわけではない。
ウエイト頼りのところがあり、体力を温存して戦っているようにも見えた。
一方皇牙は絶えず小技を仕掛け、皇一郎を転倒させるためにあらゆる角度から攻め込んでいる。
