恐竜王の花嫁


 映像では何度も見てきたのに、実物を見ると新鮮な驚きがあった。
 こんなにも空気が動き、強風が起きるなんて知らなかった。
 体が巨大化する時のメキメキと鳴る音がリアルだ。
 変容が完全に終わると、二頭のティラノサウルス・レックスが咆哮を上げる。
 スタジアムのスピーカーを通した音とは違う、もっと獣らしい獰猛さを感じた。
 鼓膜を震わせる重低音が、体中にびりびりと届く。
 二頭は睨み合いながら互いの隙を狙っていた。
 画面に常に出ているVRマーカーに頼らないと見分けがつかないかと思っていたが、変容した皇牙と皇一郎は大きさが違う。
 人間としての身長差はわずか数センチだというのに、恐竜化すると皇一郎のほうが一回りほど大きく見えた。
 大きさはそのまま強さに見えてしまう。
 王者の風格と威圧感もあり、皇牙が圧されている気がして不安になった。
 ──皇牙さん……頑張って!
 生餌として血を捧げることでしか力になれない日奈子は、それでもこうして現地に来てよかったと思っていた。
 スタジアムで応援するよりも念が届きそうな気がするからだ。
 皇牙さん頑張って、絶対勝って──そう祈り続ける日奈子の前で、皇牙が皇一郎に向かって動きだす。均衡を破り、強靭な後ろ脚で地を蹴った。
 数トンの巨体が弾丸のように皇一郎へ肉薄する。
 正面衝突の瞬間、ドォォォ──ン! という、岩同士がぶつかって砕け散るような、凄まじい衝撃音が響き渡った。
 一列しかない特別席には、恐竜が動くたびに地響きが届く。
 まるで地震がずっと続いているかのようだった。
 皇一郎は一歩も退かず、皇牙の首を狙っている。
 力では敵わない皇牙は一旦引き、もう一度、今度は斜め横から突撃した。
 またドォォォォ──ン! と音がして、皇一郎が少しだけ揺らめく。
 二頭の戦いは激化し、互いに相手の喉元を狙って牙を剥いた。
 噛み合わされる牙と牙が火花を散らし、飛び散る血がライトに反射する。
「──速い」