「今日のワンピースも可愛いわね」
「……ありがとうございます」
褒められたら褒め返すのが礼儀かもしれないと思いつつ、日奈子は押し黙る。
玲華が幼い皇牙にしたことを考えると、「素敵なお着物ですね」などとは言いたくなかった。
「日奈子さん、席を替わりましょうか?」
綾人が耳元でそっと囁いてくれたが、日奈子は「大丈夫です」と返す。
皇牙がトラウマを抱えながら父親と戦うことを考えると、自分もこの環境に耐えるべきだと思った。逃げずにただ隣に座っているくらい、大したことじゃないと自分に言い聞かせる。
玲華の隣には日本人なら誰でも知っている自動車会社のCEOが座っていて、その隣には誰だかわからないがテレビで観たことのある有名人が座っている。
日奈子とは違って、普段から特別席に座り慣れている様子だった。
座席のシートはソファーのように座り心地がよく、目の前のテーブルにはテレビの画面が埋め込まれている。
今、世間の人達が観ている戦い前の煽りVTRには、若きカリスマの竜王院皇牙と、絶対王者の竜王院皇一郎のこれまでの戦績が交互に映しだされていた。
ナレーションの重厚な声が、王座をかけた宿命の対決を煽り立てる。
画面の中の皇牙はどこまでも冷徹で強く、日奈子が知っている彼とは別人のように見えた。
日奈子が思いだす皇牙の顔は、いつだって微笑を浮かべている。
日奈子に限らず生餌や秘書を大事にしている、理想的な主だ。
長かった煽りVTRとCMが終わり、遂に戦いの火蓋が切って落とされる。
画面に映っている光景が目の前にも存在しているのが、なんだか不思議だった。
画面は二つに分かれ、皇牙は赤い枠の中で変容を……皇一郎は青い枠の中で変容を開始する。
つい画面を見入ってしまう日奈子は、実物をこの目で見なくてはと、慌ててバトルフィールドに目を向けた。
変容の瞬間、日奈子の周囲にある風が一気に動く。
木々も葉も、皇牙と皇一郎に向かってこうべを垂れるように揺れていた。
人間の姿をしている二人の体が、空気中の水分を吸い込んで瞬く間に膨れ上がり、衣服が一瞬で弾け飛ぶ。
「わ……ぁ……」
