吸血のあとの顔を直視すると、思考回路がおかしくなっていく。
混乱した日奈子は、とりあえず考えるのを後回しにした。
「皇牙さん……」
「ありがとう日奈子。お前の血は最高だ……力が漲っていく」
今も皇牙の手は日奈子の頬にあり、少しずれて耳まで押さえられる。
なんだか名残惜しい手つきだった。
もっと触れたいと言っているかのように、髪に触れ、毛先まですうっと撫でながら離れていく。
「試合、頑張ってください」
花嫁という言葉について一旦考えるのをやめた日奈子は、ぐっと両拳を握った。
いつものようにファイティングポーズを取り、「応援してます」と気合を入れる。
皇牙は普段の余裕ある表情とは違い、どこか困ったような照れたような、どうしてよいかわからない様子で苦笑した。
「返事、イエスだったら勝利を祝ってキスをしてくれ」
「……キ、キス?」
「頬でもいいから」
「……頬?」
「──うん」
皇牙はそれだけ言うと、「じゃあ」と軽く手を振って螺旋階段に向かう。
やはり照れているように見え、日奈子は一層混乱した。
思い返してもやはり「結婚を前提に」と言っていたように思う。
そして「花嫁」とも言っていた。
間違いない。
ぴったりくる同音異義語は思いつかない。
そしてキスを求められている。
つまりさきほどの言葉は、本当に求愛なのだろうか──。
──いや、まさかそんな……私なんて……アタヴィズムじゃなかったらどこにでも転がってるような普通の人間だし、出会ってまだ一月半くらいだし、ああ、でも……蓼食う虫も好き好きって言葉もあるから、あり得なくもない……の、かなぁ?
フライブリッジに残された日奈子は、「いやいやいや」と声に出してみる。
いやと言いつつも皇牙の花嫁になりたくないわけではなくて……ただ、どうしても現実として考えられないのだ。
「──花嫁……っ、結婚?」
本当なら物凄く嬉しいはずの申し出なのに……飛び上がりたいくらい最高なのに、あまりにも身分不相当で申し訳なくて、今もまだ耳を疑っていた。
