恐竜王の花嫁


 血を吸って勝利してくれるなら、どんな願いも聞き入れるつもりだった。
 自分にできることなど高が知れているけれど、皇牙が望んでくれるならなんだってやりたい。
「俺が勝って恐竜王になった(あかつき)には……」
「──はい」
「俺と、結婚を前提に付き合ってほしい」
「……えっ? け……結婚?」
「恐竜王の花嫁として、一生、俺のそばにいてくれ。返事は勝ってからでいい」
 皇牙は日奈子の首筋ではなく目を見て言うと、少し照れたように笑った。
 照れ隠しなのか急に接近してきて、首筋にかぷりと食いついてくる。
「あ……っ」
 望み通り血を吸ってもらえることを喜ぶ気持ちと、「恐竜王の花嫁」という想像を絶する頼み事が合わさって、頭がおかしくなりそうだった。
 花嫁ってなんだろう。結婚を前提に付き合うって……なんだっけ。もしかして別の意味もあったっけ──そう考えている間に血を吸われていく。
 純白のウェディングドレスを着た花嫁のイメージが浮かび上がった。
 隣には花婿がいて、それは恐竜王になった皇牙のことらしい。
 つまり皇牙と自分が結婚するということなのだろうか。
 普通はまず付き合ってくれと言われて、それからデートをしたりキスをしたりして、やがて結婚という流れになるものではないのだろうか。
 最初からいきなり結婚を前提に付き合うなんて、今の時代にそんな交際申し込みがあっていいのだろうか──。
 ──や、絶対違うよね。皇牙さんと私が付き合うとか、そんなことあるわけないし、想像するのも図々しいっていうか、これって絶対聞き間違いのパターンでしょ。私が知らない同音異義語があるのかもしれないし……。
 日奈子はパニックになりながら、吸血を終えて顔を上げる皇牙を見つめる。
 最高のコンディションを手に入れた皇牙は、今夜も官能的なほど艶めいていた。
 肉感的な唇から煌めく白い歯を覗かせ、ほうっと甘やかな吐息を漏らす。
 長く濃い睫毛は漆黒に濡れて、瞳の潤み具合はこれ以上なく性的だ。