恐竜王の花嫁


 試合前の大事な時なのに、「あとにしてくれ」なんて言わない。
 そんな彼の優しさに感謝しながら、日奈子は自分の首元を押さえる。
「今から、私の血を吸ってください」
「──っ、何を言ってるんだ?」
 日奈子の願いに、皇牙はすぐに首を横に振った。
 口でも「駄目に決まってるだろう」ときっぱり拒否する。
「満月まであと一週間以上あるのはわかっています。でも、大事な試合の前に最高のコンディションになってほしいんです」
「気持ちはありがたいが、そういうわけにはいかない」
 皇牙はまたしても首を横に振るが、日奈子は引かなかった。
「一緒に戦うことはできないけど、皇牙さんの心身の糧になることはできるから……私、どうしても血を捧げたいんです」
「駄目だ……前回の吸血から三週間では早過ぎる。お前は竜人とは言ってもほとんど人間なんだ。D4のように早く回復するわけじゃない」
「私は十八歳過ぎていて、四百ミリ献血だってできる身です。皇牙さんは私から二百ミリくらいしか吸ってないから、ここで今から二百ミリ吸ったとしても健康上なんの問題もありません」
「日奈子……っ」
「お願いです。少しでも役に立ちたいんです。ただ見てるだけなんて嫌です。私っ、このつもりで皇牙さんと同じ物を食べてきました。タンパク質を中心に、レバーとかビタミンとか、造血に必要な物をしっかり食べてきました」
 日奈子は衣服の襟元を開き、皇牙にいつも吸われている首筋を晒す。
 彼のパフォーマンスを最大限上げることが、生餌としての役目だと思っていた。
 皇牙に勝ってもらうために……勝って堂々と自分の主でいてもらうために、今こそ血を捧げたい。
「日奈子……」
 皇牙の手が頬に触れた。
 彼はもう首を横に振ったりはしない。
 日奈子の首筋を見つめて、ごくりと喉を鳴らした。
「俺からも頼みがある」
「……はい」